この度の大震災で際立っていることがひとつある。この日本で、かつて経験したことのない規模の寄付が行われているのだ。寄付の総額は今も上昇しつつあるが、約1兆円と言われる日本の年間寄付総額の数割に達することは間違いがない。その中で、寄付市場における新たな革新的な試みが続き、一方で、日本の寄付市場における課題が浮き彫りになりつつある。

 まずは、いち早く寄付市場に革新的なマーケティング手法を持ち込んだグルーポンの試み、そしてその背景にいた人々の挑戦を見ていこう。

「後悔のないことをやろう」
余震が襲う中で考案された「マッチングギフト」

「これは、数百年に一度の災害だ」
 「後で後悔しないように、やれることは全てやろう」

 これは、東日本を襲った大震災の当日、グルーポン・ジャパンの本社の経営陣の中で交わされた会話だ。ビルの揺れすら収まらず、家に帰ることすらできなかった社員の言葉から、「マッチングギフト」という仕組みが提案された。単純に寄付を集めるだけではなく、集まった寄付の分だけ自社で金額を上乗せする――つまり、ユーザーの寄付が倍になるという――仕組みだ。

震災が明らかにしたグルーポンの「素顔」<br />――台頭する「寄付プラットフォーム」が拓く新たな可能性【前編】意志決定のシーンを思い浮かべながら話す瀬戸氏。

 CEOの瀬戸は危機の中、震災の被害の規模さえ想定できない中で、自社からの寄付だけで1億円を投じること、また、その寄付を呼び水に、グルーポンのウェブサイトを活用して、被災者の為の寄付を集めていくことを決めた。それは、グルーポンというベンチャー企業の強みを生かしたという意味で、「戦略的なチャリティー」だった。