米国の研究者1人当たりR&D投資額は日欧の2倍、トランプ政権の「知の流出」が“好機”と言えない理由Photo:Chip Somodevilla/gettyimages

教育研究機関への圧力を強める米国
米国の研究者、75%が転出を検討!?

 トランプ第2次政権は発足から約半年を経過した。この間に関税引き上げや移民流規制強化などの多くの保護主義政策が推進されてきたが、トランプ政策がもたらす影響は、インフレのように短期間で顕在化するものにとどまらない。

 より中長期的な観点で見ると、大学や研究機関への助成凍結や削減、留学生ビザ審査の厳格化などで、研究者や技術者など高度人材が流出することも、将来の米国経済に対して大きな影響を及ぼす可能性がある。

 トランプ政権は教育研究機関への圧力を強め、ハーバード大学に対して留学生の受け入れ資格停止や助成金の凍結を発表し、同大学との法廷闘争が継続している。また、6月にはすべての学生ビザ面接を一時停止した。その後ビザ面接は再開されたものの、申請者のSNS投稿内容の審査強化などの措置が導入されている。

 さらに、技術者などを対象にした専門ビザ(H-1Bビザ)でも審査の厳格化が政権内で議論されているという。トランプ政権はこれまでビザを持たずに不法滞在する移民の強制送還に注力してきたが、今後は外国人技術者の流入規制や就労ビザの厳格化が進む恐れもある。

 こうした中、すでに一部の研究者や高度人材が米国外に流出する動きも出始めた。例えば、イェール大学やノースウェスタン大学では、複数の研究者がカナダや英国への移住を表明した。科学誌ネイチャーが3月に行った調査では、米国の研究者の75%が欧州やカナダへの転出を検討していると報告されている。

 一方で欧州や日本の教育機関や政府の間では、米国から流出する研究者や留学生を積極的に受け入れ、自国のイノベーションや成長につなげようという動きが広がっている。

 研究者や技術者など高度人材の流出増加・流入減少の影響は、短期間で確認できるものではないが、5年や10年先の将来を見据えた場合、「知の流出」が加速すれば米国経済の成長力が大きく損なわれるリスクがある。

 しかもこの損失は米国にとどまらない可能性がある。