福島原子力発電所の事故は自然災害ではなく“人災”の様相を帯びている。避難者を救うのは誰か
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 緊急雇用対策の財源をめぐって、ひと悶着ありそうだ。雇用保険制度の下で実施されている二つの措置──失業給付と雇用調整助成金──の財源問題が浮上しつつあるのだ。

 失業給付は、雇用保険の被保険者が失業中の生活を心配することなく再就職先を探せるよう支給される。後者の雇用調整助成金は、労働者の失業予防を目的としており、景気変動により企業損益が悪化した際に、事業主が労働者に支払う休業手当や賃金の一部を国が助成する。

 震災直後に、厚生労働省内では、ある議論が持ち上がっている。福島原子力発電所事故の被害者(労働者、企業)の救済方法について、矛盾を指摘する声があるのだ。震災による直接的被害を受けた労働者、企業に対して、失業給付、雇用調整助成金が支払われるのは慣例だが、「“人災”の様相を帯びてきた原発事故を理由に、政府の指示によって、退避させられた労働者、企業を、なぜ従来の雇用保険制度で救済しなければならないのか」(厚労省幹部)という声が上がったのだ。もっといえば、政府の指示で生じた失業補償なのだから、国庫負担とすべきではないのか、という主張である。

 失業給付(今年度予算では約1.4兆円)の財源は、全体の13.75%は国庫負担、それ以外のほとんどは、労使折半の保険料である。雇用調整助成金の財源は事業主負担の保険料だ(一部は労使折半の保険料で補填)。おおまかにいえば、失業給付は労働者と企業が負担し、雇用調整助成金は企業が負担している。原発事故の責任をなぜ、労働者や企業が背負わなければいけないのか、という問題提起がなされるのもうなずける。

 現在、失業給付については、わずかながら財源に「国庫」が組み込まれていることを根拠に、国も面倒を見ているという発想から、原発事故の避難者にも幅広く支給され続けている。一方の雇用調整助成金の受給要件である「経済上の理由」には、国の政策により休業させられている事例は含まれていないため、今のところ福島の避難対象区域の企業には、雇用調整助成金は支払われていない。

 再び、財源問題が浮上するのは必至だ。政府は、夏場に最大使用電力の“使用制限令”を発動する予定で、休業に追い込まれる企業が続出し、失業者が溢れることが確実視されている。だが、雇用調整助成金の受給要件である「経済上の理由」に国の政策による休業は含まれない。

 雇用保険制度の下で、円滑な企業支援策を打つことは財源問題が解消されない以上不可能であり、雇用の受け皿消失が失業給付金額の増大を招くという悪循環に陥る。たとえば、原子力損害賠償制度、エネルギー対策特別会計、(既存とは別の)特別雇用調整助成金の新設といった手段で、失業者を救済する包括的な仕組みが必要となろう。

(「週刊ダイヤモンド」副編集長 浅島亮子)

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