プランからチャンスを見つける

 世界七大陸最高峰の登頂は、短期間に凝縮されたプランに見えるかもしれませんが、臨機応変に追加していった部分もあります。

 18歳から19歳の1年半だったということで、こんな質問もよく受けました。

 「なんでそんなに急ぐの? まだ若いし、山は逃げないのに」

 でも、私にとってはこの1年半がベストタイミングでした。

 エベレストに登ろうと、プランを立て始めたのは17歳の時。

 真っ先に考えたのは、自分が女性であるということでした。いずれ子どもを産みたいと思っているし、できたら4人くらいほしい。母親になるのは、私の大きな夢の1つです。

 子どもができたら、ずっとそばにいるべき日が来ます。
 小さな子どもたちを置いて「ママ、ちょっとエベレストに登ってくるから、パパとお留守番していてね」というのはあまり現実的ではないし、母親になった自分が命を落とす可能性もある冒険をすることは、子どもに対して無責任ではないかと思いました。

 さらに子どもを産む前に、私は社会に出るはずです。どんな仕事をするのかは、まだわからないけれど、働くからには仕事にも目一杯とり組みたい。「エベレストに登るのでしばらく休みます」というのは現実的には難しいだろうと、想像がつきました。

 それでも体力も考えると、25歳までには登りたい。
 気力、体力、自分の社会の中での役割。

 こうしたことを考えると、行ける時期と行きやすい時期が絞られてきます。
 「大学に入る前、もしくは大学在学中がベスト」
 これが私の結論でした。

 逆に言うと、「この時期しかチャンスはない」と考えたのです。
 17歳とはいえ、自分なりの将来設計もかねていたので、父に相談しました。

 「エベレストに登りに行こうと思っているんだけど」

 父はしばし考えたのちに「わかった」と言いました。あれこれ心配したり反対したりもしませんでしたが、こう付け加えたのです。

 「その熱意は認める。やりたいんならやればいい。だけど、これは真鈴自身のプロジェクトだ。資金サポートもしないし、自分の力で完遂するように」

 やりたいと言ったことはやらせてくれるし、良い意味で自主性を尊重する、父らしいと言えば父らしい答え。私も反射的に答えました。

 「わかった、じゃあ自分でやるから!」

 言ってしまったものの、エベレストに登るには、相当のお金がかかります。
 「1000万円ぐらいかかるんだろうなあ」と想定していましたが、調べれば調べるほど、資金の壁という現実を突きつけられます。

 そんな貯金は当然ないし、アルバイトでまかなえるような金額でもない。資金を調達するには、スポンサーを探すしかない。それには、自分の売りとなるキャッチフレーズのようなものが必要だ……。

 あれこれ調べていると、その時点での日本人エベレスト登頂最年少記録は20歳だとわかりました。
 17歳から準備をして19歳までに登れば、最年少記録更新です!

 「私は必ずエベレストの日本人最年少記録をつくります。ぜひサポートしてください」

 こんなメールを企業や新聞社に送り、スポンサー探しをスタートしたのが、私の挑戦の始まりでした。

 私は日本人最年少記録をつくりたかったわけではありません。
 お金もない。コネもない。何もない高校生が夢を実現するために、役に立つものが年齢だったということです。

 何かをするのにプランは必要です。そのうえで、どこに実行のチャンスがあるかという「タイミング」と、今の自分の「強み」をしっかり考えることも大切なのかもしれません。