「いいや、アレクセーエフはいい奴さ」
重ねて浴びせる隆嗣の言葉に、何らかの意図があると感じた清義が問い質した。
「何が言いたいんだ?」
隆嗣が、わざと一拍間を置いてから話し出した。
「アレクセーエフが、先月俺のところにも連絡をくれてね……。関税が上がるから、お前も丸太をまとめて買っておかないかと誘ってくれたんだ。お前も、ってね」
両脇の総経理と副総経理が驚いたような顔で清義の顔を窺う。すると、清義は苦笑いを浮かべ、両手を上げて降参した。
「わかったよ、みなまで言わなくてもいい。半年だ。年内12月一杯まで現状維持で続けよう。それでいいかい? 老朋友」
隆嗣も皮肉な笑みを浮かべて頷き同意を示した。
ロシアの昔話に飛躍して、訳が判らずただ見守っていた幸一は、突然相手が半年の延長に同意したことに驚き、同じように沈黙していた岩本へ通訳してやった。
「なに、半年延長で呑んでくれたのか、助かった。これで、少なくともペナルティは払わされずに済みそうだ。伊藤さんは、いったいどんな手品を使ったんだ?」
しかし、幸一に説明は出来なかった。
「さあ、私にも訳が判りません」
岩本は大連瑞豊木業公司と年末まで現状維持の契約書を交わし、笑顔で清義と堅い握手をして会談を終えることが出来た。