「1on1が定着すれば企業風土が変わる」

 人事の責任者になって、そんな1対1の対話を制度化して、全社に浸透させようと考えたのですが、もちろん、そう簡単には行きませんでした。

「1on1に時間をとられてほかの業務ができない」とか、「1on1に意味を感じない」などと何度も言われたものです。

 でも、私には1on1を広め社内に定着させることによって、企業風土が変わる、という確信がありました。コミュニケーションが密になることによって、ビジョンが共有できたり、個人の強みを活かしたチームづくりが可能になるだろう、と思ったのです。

 1on1を始めてから5年目になりますが、その思いは、ある程度、実現したのではないかと考えています。もちろん、成果を定量的に評価するのは難しいですが、社内調査では社員の9割が、少なくとも隔週で一回以上の1on1を実施しています。

 ヤフーの社内では1on1という言葉が社内用語として普通に使われていますし、他社でも、1on1を指向する企業が増えている、と聞きます。

 今回、1on1について解説する書籍をつくろうと考えたのも、共感してくださる方々とのネットワークができたらいい。1on1について、きちんと言語化し、仲間を増やして連携し、さらにブラッシュアップしていきたい、と考えたからです。

 そうは言っても、事前に時間や場所を決め、テーマもある程度用意して臨む1on1は、正直に言えば、面倒なものです。

 ヤフーでも最初からすべての社員に理解してもらえたわけではないのですが、制度化することで「やらざるをえないもの」にし、研修など、制度を補完する仕組みもつくりながら、なんとか定着し、浸透することができてきました。

 これから数回の連載記事を通して、1on1の真価や、浸透させるための仕組み、さらには1on1を実施する私たちの思いについて、お話ししていきたいと思います。