「一つ疑問があるのですが……。そもそもこの工場は、何のために作られたんですか? これだけ立派な建物がありながら、3年もほったらかしなんてもったいないですよ」
咳払いをした李傑が、小声で説明する。
「ここは金属鍍金工場になる予定だった。台湾の企業が進出を決めていたが、上屋が完成した時点で、肝心の台湾の親会社が倒産してしまってね。それで、この状態のまま捨て置かれていたんだ。鍍金工場になるはずだったから、排水の浄化設備も備えている。接着剤を使用する合板工場にはうってつけだと思うが、どうだろう」
「つまり、台湾の企業は徐州市人民政府に50年間土地使用の権利金を支払い、工場上屋建設まで資金をつぎ込んだ挙げ句に消えてくれた訳だ。無償で我々に提供しても、損はないよな」
隆嗣が皮肉をぶつけた。
「おいおい老朋友、こちらは君を信用して実情をすべて打ち明けているんだ、無茶を言ってもらっては困るよ。私たちの立場も分かるだろう?」
李傑は、両手を広げて大げさに訴えた。
「木材産業なんて、利益が薄い商売だ。白紙状態から当たり前の投資をしていたら、儲かりはしないよ。それに、中央政府の意向に沿った環境対策の植林木利用事業なんだろ? 少々の無茶は通用すると思うがね」
隆嗣も後へは引かない。旧友とはいえ、共産党と言う体制側に身を翻した李傑に対して、本能的に一線を画しているようだった。