空港から40分ほどのドライブで、経済開発区の綺麗に舗装された道路に辿り着いた。
碁盤の目のように整理された工業団地は、すでに8割ほどの区画が埋まっており、工場内を移動するのに車が必要ではないかと思われるような電子部品工場の大きな建物などに目を奪われた。区画の一つ、白い建物が二棟並ぶ工場敷地内へとワゴン車が進入する。
車から降り立つと、銅山県の県長という人物が出迎えて、「歓迎、歓迎」と握手を求めてきた。これは、我々への歓迎というよりも、李傑の政治力を重視する歓迎だとわきまえている隆嗣は、挨拶もそこそこに、また演説を始めようとした経貿委員会の男を無視して、白い工場上屋へ向けて歩き始めた。一行も慌ててその後に従う。
「君がくれた資料通りのようだな」
屋内に入り、等間隔に立ち並ぶ太い柱以外には何もない殺風景な広い空間を見渡した隆嗣が、李傑に声を掛けた。
「ああ、上屋は幅35メートル、奥行き70メートル。隣の棟も同じだから、二つ合わせると床面積は4900平方メートルになる。十分な広さがあると思うが」
「うむ……、築何年になるんだ?」
「建ってから3年は経過しているはずだが、工場として実働したことはないし、メンテナンスには注意するよう言っていたので、見ての通り新築同様だ。それに、この区画の敷地総面積は3万平方メートルあるから、将来上屋を建て増しするようなことがあっても、十分な余裕がある」
男たちは、ゆっくりと見回しながら工場の中を歩き回る。
「山中君、君が見た感想はどうだ」
隆嗣が意見を求めた。ポプラLVL(平行合板)工場の候補地を見学に行くから付き合えと、今回も隆嗣から急に呼び出されてやって来た幸一は、最初こそ戸惑っていたが、工場に入ると持ち前の生真面目さを発揮して、懸命に値踏みする目を光らせていた。
「そうですね、屋内の高さも十分にありますし、柱の間隔も10メートル以上あるようですから、設備のレイアウトも問題ないでしょう……。この地域では、冬はどれくらい冷え込むんですか?」
「そうだな、一番寒い時で、マイナス7、8度かな」
李傑が答える。
「合板は、接着性能が品質の鍵です。あまり冷え込むようだと接着剤の性能が落ちてしまうし、その保管も出来ません」
幸一の発言に、今度は経貿委員会の男が応じた。
「その壁面に出ているパイプを見てください。工場全体に張り巡らせたパイプにボイラーで暖めたお湯を循環させて、真冬でも屋内を10度以上に保つことが可能です」
「ボイラーは何トンですか? 何基ありますか?」
幸一の問いに、男が慌てて手にした資料をめくって答えを探す。
「えっと、2トンボイラーが1基です」
「それじゃ足りない。ホットプレスや集塵機などの設備を考えると、新たに4トンか5トンのボイラーを据えなければいけませんね」
そんな幸一たちのやりとりを、隆嗣は横から黙って見守っていた。