そして、自民党は処罰対象となる676の「重大な犯罪」とする「テロ等準備罪新設法案」の原案を作成した。だが、殺人、放火、化学兵器使用による毒性物質等の発散、テロ資金の提供など「テロに関する罪」は167だけにとどまっていた。

 一方、強盗、詐欺、犯罪収益等隠匿など「組織的犯罪集団の資金源に関する罪」が339、覚醒剤の製造・密輸など「薬物に関する罪」が49、偽証、組織的な犯罪における犯人蔵匿など司法の妨害に関する罪が27など、組織的犯罪にあたるがテロとは直接的に関連がない罪が多数並んでいた。また、「組織的犯罪集団」による犯罪の計画にはあたらないものの「懲役・禁錮4年以上の刑」にあたるために対象に数える罪(過失犯など)も41含まれていた。

 安倍首相や自民党の保守派は、安保法制の立案時と同じであったといえる(2015.4.16付)。これまで3度廃案になっても諦められないのだから、「共謀罪」についても、非常に強い思い入れを持っているのだろう。対象となる重大犯罪の範囲は、「テロ等の準備」を超えて、非常に幅広いものとなっていた。

公明党との非公式協議による
処罰対象犯罪の削減という「歯止め」

 自公政権では、安保法制など過去の重要法案については、国会提出前に与党による事前協議を行なってきた。しかし、この法案については、事前協議会の設置を見送った。これは、この法案が今国会に提出されることが明らかになってから、民進党など野党が衆院予算委員会で質疑を行ったことに対し、法務省が「法案審議を国会提出後にするよう配慮を求めた」文書を発表したことで、野党側が態度を硬化させて金田勝年法相の辞任を求める事態となったりしたことなどが影響したのだろう。

 自民、公明の事前協議の内容が次々と明らかになるようでは、野党の追及により予算委員会が紛糾し、世論の反発が強くなり、国会提出前に法案がボロボロになる。国会審議を乗り切る力を政府与党が失ってしまうことを恐れたと考えられる。

 その結果、両党の調整は水面下で行われることとなった。だが、官僚が両党の間を走り回ってまとめたとの話もあり、政治家の動きはわからず、法案修正の過程はなかなか見えてこなかった。だが、自民、公明両党がそれぞれ党内で了承を得て「閣議決定」された法案は、対象とする犯罪が676から277まで絞り込まれていた。具体的には「テロに関する罪」の対象は110まで減り、その他についても「薬物」29、「人身」28、「資金源」101、司法妨害9と大幅に減っていたのである。