「なぜこんなものを作るのか。村民のお金を乱用しているのでは」と心の中ではそのように不満をぶつけていた私は、できるだけ軟らかい表現で疑問を伝え、その真意を確かめてみた。そこでまた不思議な思いに見舞われた。

「どうして疑問を持つのか?香港返還は私たち中国人の一人ひとりにとっては非常に大事な出来事ではないのか」と息子から逆に聞かれたからだ。

 それ以上、質問しても意味がないと悟った私は、それ以降、何も聞かなくなってしまった。そして、心の中で「この村にはもう来ないだろう」とつぶやいた。村営企業で村の発展と村民の福祉を支えるビジネスモデルと集団化経営を貫く村の成功経験は、中国の農業経営の問題を解決していない、と認識したからだ。

 だから、私は日本のメディアで、「経済が発展し、競争が激しくなった今の中国では、技術レベルが低い製鉄所と、衣料品やインスタントラーメンを加工する町工場的な企業で、集団化の成功村の躍進を引き続き支えていけると思うか」と聞かれると、「強く疑問に思う」と答えている。

コア技術と研究開発力を持たない
金持ち村は窮地に立たされている

 最近の中国メディアの報道によれば、2016年3月末現在、鉄鋼、紡績、資材、商業など5つの分野で、傘下企業208社を抱える華西集団は、総資産541.93億元(約8670億円)である。しかし、同集団の負債総額は389億元超、資産負債率は約69%だという。7割近い負債率は、従来の産業モデルが日ごとに衰えるのに伴って、かつて中国農村経済の模範だった華西村が岐路に立たされ、モデルチェンジが避けられないことを物語っている。

 現在、華西集団は博豊鋼鉄、華西北鋼、華西南鋼などを擁している。鉄鋼加工では、華西集団は華西村に型材工場、フランジ工場、帯鋼板工場、溶接管工場、曲がり管工場などを相次いで建設し、鉄鋼加工の産業チェーンを構築した。

 だが鉄鋼業の不景気で華西集団の3大鉄鋼企業は全面的な赤字となった。

 2008年の金融危機後、海運企業の大多数が赤字となり、船舶を売りに出す形で損失を埋めた。当時、華西村はむしろこれを海運業界に参入する千載一遇のチャンスだと踏んで、5隻の船を中古で安く購入し、海運業に足を踏み入れた。その海運業も大きな赤字を作っている。

 コア技術と研究開発力をもっていない華西村のような中国の「金持ち村」はこのところ、相次いで窮地に立たされている。突破口がどこにあるのかという基本的な課題さえもまだクリアしていない。村の経営は、今後、ますます凋落していくだろう。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)