>>(上)より続く

息子を連れて実家に帰った元妻
離婚で父の遺産500万円も強奪され…

 リビングに置かれていたのは元妻の書いた置き手紙。妻は湊ちゃんを連れて実家へ戻り、4日後には自宅に弁護士からの手紙が届き「今後、離婚手続の一切を代理しますので、何かあれば私に連絡してください。くれぐれも美紀さんに連絡しないよう」と非情な一文が盛り込まれていたのです。「女性の権利向上」を高らかに掲げている弁護士事務所からの一方的な通告を目の前にして、洋平さんは頭が真っ白に。手は小刻みに震え、目頭が一気に熱くなり、そして足は宙に浮いているような感じで、何が何だか分からない状態でした。

 結局、洋平さんは妻子を連れ戻すどころか、元妻と話し合うことも、湊ちゃんの顔を見ることも叶わず、ほとんど弁護士に言われるがまま、離婚届にサインせざるを得ず、紆余曲折の末、親権は元妻が持ち、養育費として月8万円を20歳まで、解決金として300万円、別居から離婚までの生活費として200万円という極めて不利な条件を飲まされてしまったのです。

「500万円も大金、持っていないのに…」

 元妻側は洋平さんの実家の財産を見越して、無理な請求をしてきたのは明らかでした。洋平さんは父親の遺産を使って解決金、生活費を一括で支払うことになりました。

 ここで話は冒頭に戻りますが、洋平さんに万が一のことがあった場合に備え、私は「遺言を作成してみてはどうか」と提案しました。湊ちゃんに相続させたくないのなら、遺言にそのことを残せば良いではないかと。

 遺言は自筆証書遺言と公正証書遺言の二つに分かれます。後者の場合、公正役場で公証人立ち会いのもと本人が署名捺印をします。いざ本人が亡くなり、遺言を発見し、相続を開始する前に、遺言の発見者が勝手に中身を書き換える可能性があります。そのため、遺言の原本は本人だけでなく、公正役場でも保管しておきます。もし、発見した遺言と公正役場の遺言に相違があった場合、改変の事実が明るみに出るので安心です。このことを踏まえた上で私は公正証書遺言を残す手続をお手伝いしました。