私の事務所には障がい児を抱えているにもかかわらず、「妻と離婚したい」と相談しに来る男性(夫)がおり、それは決して珍しい光景ではありません。今回紹介する藤崎実さん(58歳)もその1人です。
私は開業してから今年で11年目。最初にこの手の相談を受けたときは「子どもが障がいを抱えているのに、父親と母親が助け合わないなんて……」と酷くショックを受けました。
「娘のことももう少しです。娘が手から離れれば、妻とは今までとは違った形でやっていけるかなぁと甘く考えていた時期もありました」
そうやって定年退職後の夫婦生活について語ってくれたのは今回の相談者・実さん。妻に愛情を感じることは難しかったのですが、子育てのパートナーから、これからは老老介護のパートナーとして一緒に暮らしていくことはできるだろう、お互いに「多少、我慢をすれば」……と思いのほか、楽観していたようです。
このように子どもの独立をきっかけに夫婦の形を変えていくことを「卒婚」といいますが、せっかく20年来、夫婦として共に生きてきたのだから、わざわざ籍を抜き、財産を分け、離れ離れになるのも面倒なので、夫婦の間に特別な気持ちがないのは確かでも、あえて何もしない(現状維持)というのも立派な選択肢の一つのように思えます。
しかし実際のところ、そんな生やさしい問題なのでしょうか?実さんの場合、「多少の我慢」では済まされず、妻は超えてはいけない一線を越えてしまい、実さんも堪忍袋の緒が切れてしまったのです。
暴言を吐く悪妻でも許していたが
娘の将来を台無しにする発言は許せなかった
「妻はとにかく『自己愛』が強すぎるんです。些細な夫婦喧嘩は結婚からずっと絶えなかったのは確かです。例えば、僕が『もっと皿をきれいに拭いてほしい』と頼んだところ、妻は僕が以前皿洗いを手伝った時のことを蒸し返して『あんただって音を立てて洗っているじゃないか!』と論点をすり替えたり……」
それ以外にも妻が夜中までスマートフォンを見ているので実さんが『いい加減にしろよ』と指摘すると、『そんな時間があるなら(セックスに)応じろということなの!』と勝手に誤解したり、実さんが妻のことを気遣って『なにか悩みごとでもあるのか?』と尋ねたところ、『そんなこと相談するなと前に言われたのに何を今さら』と、実さんが言ってもいないことをでっち上げたり……悪妻ぶりを示すエピソードを挙げればキリがないそう。
「この程度なら僕だって我慢します。しかし、今回ばかりは許せなかったんです」