(2008年6月、徐州)
緊急招集された会議が、隆栄木業有限公司事務所棟の2階で開かれた。
董事長の隆嗣と副董事長の李傑が会議室奥に陣取り、総経理の張忠華と副総経理の幸一、そして工場長である石田の3人が、手前に並んで腰掛けていた。
「急な呼び出しだが、何か問題でも起きたのかい?」
相変わらずの親友顔で、李傑が隆嗣へ問い掛ける。
「日本へ出張してきたんだが、その際に建材商社や住宅メーカーなどを訪問して売り込みと調査をしてきた。日本市場は相変わらず低迷を続けている。危機的ともいえる状況ではあるが、日本市場がゼロになる訳ではない。実は、ある大手建材商社の幹部と交渉し、決断を下してきたんだ」
「何についての決断ですか?」
幸一が発言する。中国語で行われる会議のため、石田への通訳も同時に行っているので幸一には忙しい会議であるが、その横で張忠華はひとごとのように欠伸をかみ殺し、二日酔いで赤く充血した目を伏せていた。
「日本の業者は軒並み建材の輸入を絞っており、収縮局面に入っている。つまり、売れると決まった物だけを仕入れて販売しているということだ。どこも余分な在庫を抱えていない。したがって、不況の中でありながら、末端の現場レベルでは材料が逼迫しているという矛盾も起き始めている。
それに、今年発生した中国産冷凍食品の農薬混入問題などで、中国の商品は信用できないという風評被害が日本中に蔓延していて、それは中国産建材にまで影響している。これが日本からの発注減少に一層の拍車をかけていて、先月に日本へ輸出されたポプラLVLは、対前年同月比で半分にまで落ち込んでいる」
そこで一拍間を置き、出席者一人一人の顔を見回してから隆嗣が続けた。
「しかし、私はこの逆境こそが、日本のポプラLVL市場においてシェアを伸ばす好機と捉えている」
幸一と石田が顔を見合わせる。
「それはつまり……」