「現在の為替レート換算で、1リューベー当たりだいだい375ドルですね」

「わかった。それでは利益と為替等の変動リスク分として25ドル、約6パーセントをオンして、400ドルでやろう」

「しかし、日本の厳しい要望に屈して、360ドル前後で輸出している会社もありますよ。1割も高くて競争できますか?」

 幸一が水を差すが、隆嗣は敢えて鷹揚な笑顔を見せる。

「だからこそ、他所より1割高くても隆栄木業の製品が欲しいとお客さんに言っていただけるよう、立派な商品作りに努力してくれ。来月、7月から900リューベー出荷体制だ。
  当面の課題は二つ、まず生産量を如何に上げるかということ。もう一つの課題は、構造用LVLの生産に着手することだ。技術的ネックとなる単板乾燥をクリアするには、本格的な単板ドライヤー設備を導入する必要がある。以前、マレーシアで小径木用の合板設備が売りに出ていると、山中君が言っていたね」

「ええ。電話で友人から聞いた情報ですが、まだ残っているかどうか……。それにしても、創業半年で追加投資ですか?」

 幸一の胸の中で、先ほどから隆嗣に向けて抱く違和感がじわじわと広がる。

「追加投資の可否は別にして、とりあえず詳しく調べてくれないか」

「わかりました」

 幸一は、あくまでも調査と割り切って引き受けた。

 長い会議が終わると、真っ先に総経理の張忠華が出て行った。

 石田は生産スケジュールの変更を強いられ、来月からの増産に必要な条件を整理するため、頭を掻きながら事務所へと向かった。石田に続いて会議室を出ようとした幸一を、隆嗣が呼び止める。

「山中君、ちょっと待ってくれ」

 振り返ると、隆嗣は立ち上がって歩き出そうとした李傑の肩にも手を置いて引き止めている。仕方なく二人は席に戻り、三人での会談が始まった。