「フル生産して商品を日本へ送り込む。隆栄木業は、JAS認証を取得した、日本人が管理している工場だ。これが他社商品との大きな差別化として活きてくる」

 隆嗣が宣言すると、すぐに幸一が不安を表した。

「お気持ちは判りますが、いま仰ったとおり、日本の建設業界の冷え込みは底が見えません。ここで勝負に出るというのは、危険ではありませんか?」

「もちろん、操業間もないこの会社に負担をかけるつもりはない。日本のイトウトレーディングがインポーターとしてすべてを受け入れる。L/C(信用状)決済で即現金化できるようにするから、資金繰りも心配してもらわなくてもいい」

 力強く話す隆嗣に、幸一は疑問を重ねた。

「しかし、売りの営業は誰が行うんですか?」

「さきほど話した、ある大手建材商社とイトウトレーディングの間で、販売委託契約を交わすことにした」

 自分の知る伊藤隆嗣という人間は、このように軽い能弁家ではなかったはずだ。何か引っ掛かるものを感じた幸一は、なおも喰い下がる。

「その建材商社はどこですか?」

 すると、隆嗣は口元を歪めただけの作り笑いを返した。

「それは、イトウトレーディング社の企業秘密だ。あの会社にとっての唯一の収益源だからね。軌道に乗ったら、いずれ紹介するよ」

「隆嗣には、それなりの自信があるというわけだね」

 李傑の声に頷いた隆嗣が、石田に向き直って具体論に話を進める。

「それで、現状フル生産で何リューベーまで生産できるのかな?」

「そうですね、1000リューベーと言いたいところですが、900というのが現実的な線ですね」

「では、その900リューベー生産時での原価、もちろん減価償却と固定経費を含んだところで、輸出諸経費や船運賃などを加味した出荷コストは幾らぐらいになりますか?」

 石田が電卓の上で忙しく指を躍らせ、みんなその指に注目して辛抱強く答えを待っていた。ただひとり虚ろな赤い目をしている総経理を除いては。