「同じ食事をする双子ですら、腸内細菌は違う」
『双子の遺伝子』等の著作を持つ世界的な双子研究の権威で、ロンドン大学キングス・カレッジ遺伝疫学教授、英国医科学アカデミーフェローも務めるティム・スペクター氏が発見した、驚きの事実だ。この研究をきっかけに食事、栄養の科学に疑問を持ち、その研究成果を『ダイエットの科学』(白揚社)としてまとめたスペクター氏に、正しい「食事」をするためのアドバイスを聞いた。(インタビュアー:大野和基)
たとえ双子でも腸内細菌は6割違う!?
―― 前編の最後に、腸内マイクロバイオーム(微生物のコミュニティ)こそが、ダイエットにまつわる神話を打破する「カギ」となる、と伺いましたが、微生物に関してはまだまだ研究の余地があるということですか?
ロンドン大学キングス・カレッジ遺伝疫学教授、英国医科学アカデミーフェロー。双子研究の世界的な権威であり、近年はとくにマイクロバイオームを中心に研究を続けている。これまでに発表した論文数は800本以上、論文の被引用数は世界でもトップ1パーセントに入る。邦訳書に『双子の遺伝子』(ダイヤモンド社)、『99%は遺伝子でわかる』(大和書房)がある。
(写真:大野和基)
スペクター まだまだほとんどわかっていません。現時点でわかっていることは氷山の一角にすぎません。にもかかわらず、今すでにわかっている情報だけでも驚きの連続です。我々の体内には、我々の一人ひとりがいかにして食べ物を消化するかだけではなく、太ったり痩せたりするかにも影響を与える微生物がいます。また、数週の間に我々の体を変えることができるという観点で微生物をみると、さまざまな役割を果たす微生物を発見することで、同じ結果が得られる薬を作ることだってできるはずです。
これは私からみると本当にわくわくすることです。そういう役割をする微生物を発見してから数ヵ月でそれを組み込んだ栄養食品や発酵食品を作ることができます。朝食べる納豆にもそれを入れることができます。それで数ヵ月で痩せることができます。この分野は今日の医学と科学の分野でもっともわくわくする分野のひとつです。
―― 一卵性双生児は、まったく同じ食事をとっても異なる結果となったのですか?
スペクター そうです。あとでわかったことですが、一卵性双生児でも体内にある微生物は非常に異なるからです。遺伝子はまったく同じで、18歳まで同じ家で育った一卵性双生児を調べましたが、腸内微生物をみると40%くらいしか同じでないのです。一般的にはほとんどの人の腸内微生物は非常に個性的なものですが、遺伝子がまったく同じでもかなり異なるということです。これは非常に重要なことです。一卵性双生児の間の違いと類似点の両方とも、この微生物に起因しています。
ですから、微生物とそのコミュニティであるマイクロバイオームが今日科学の中でもっともわくわくする分野のひとつなのです。だからこそ、私はこのテーマについて伝えたかったのです。単に微生物の観点からだけではなく、人間が口にする食べ物や栄養の観点から、それがどのように我々に影響するか、について伝えたかったのです。