将来有望な市場、業界外からの参入も

 北京や上海には高度経済成長の波に乗った高額所得者が多いこともあり、有料老人ホームが相次いで開設されている。このシニア市場が将来有力と判断して業界外からの参入も活発になっている。

 前回「住宅団地ケア」として記した「万科集団」を巡ってM&Aの動きがあわただしい。それまで15%の株を保有し第2位株主であった「華潤集団グループ」がこの1月に深セン市地鉄集団に全株を売却した。

 万科集団は、中国で有数の不動産デベロッパー。開発してきた住宅団地内で、デイサービスやショートステイなど在宅サービスにこの数年着手している。いわば事業多角化の一環として、介護ビジネスに乗り出したわけだ。

 一方、「華潤集団」は、やはりこの1月に今回取り上げた「紅日家園」をM&Aでグループ内に取り込んだ。

「華潤集団」は、中国最大の小売りチェーン「華潤万華」を中核とした中国政府系の大手複合企業グループ。電力をはじめ食品、繊維、不動産などを手掛け香港市場に上場している。「雪花」ブランドのビールでは、市場シェア約25%のトップ企業でもある。

 グループ内の「華潤医薬集団公司」が2016年10月、医療分野で日本の富士フィルムと提携したことでも知られる。

 こうした巨大なコングロマリットが、今後、介護ビジネスへ進出してくる可能性は高まるだろう。というのも、一人っ子政策で伝統的な大家族が減少するとともに、家族介護の道は閉ざされてしまう。介護の社会化は広がざるを得ないからだ。

 もうひとつ、中国の介護市場が一挙に急展開する可能性がある。この3月に訪れた上海で目にした看板にショックを受けた。「禁煙」の表示である。

上海市内のショッピングセンターでは禁煙の表示が大きく掲示されていた

「上海市公共場所控制吸烟条例」が施行され、一般の事務所だけでなくショッピングセンターや飲食店、ホテル、駅や空港の交通関連施設などで全面禁煙が3月1日から始まった。子どもが来る病院や劇場、学校では敷地内ですべて禁煙だ。

 違反すると喫煙者と施設に罰金が課される。最高額で、喫煙者には200元(3200円)、施設には3万元(48万円)。日本では、オリンピックを控えて受動喫煙を防ぐため、同様の措置を厚労省が講じようとしているが、族議員の圧力で「分煙」議論に押されっぱなしの有様だ。

 国際化の道を駆け足で上る上海。「進化」はまだあった。交通渋滞の解消策だ。

 歩道寄りの道路端に黄色のラインが延々と塗られている光景に出くわした。駐車禁止の表示ではない。一時停車も禁止した。このため、車は全く止められない。たまたま、観光地の豫園に立ち寄ろうとしたが、バスは少し離れた大駐車場まで向かわねばならなくなった。お蔭で、交通混雑がかなり緩和されたのは確かだ。

 さらに、車道を仕切った2輪車専用レーン。レンタル自転車が市内のあちこちにあった。車のクラクションの音も消えてしまった。「進化」が随所にみられる。5年ぶりに訪問した上海の変貌。やって来る多くの外国人を十分意識した施策であろう。そればおのずと国際化への道を辿る。さて、介護サービスが同様の道筋を歩むとどうなるだろうか。

 集団的な管理ケアから個別ケアへ。医療重視から生活重視へ――。こうした介護サービスの世界的流れに気付けば、一気に方針転換が成される可能性がありそうだ。日本でもグループホームや施設の個室化を始めてまだ20年も経たない。後発者が先行者を追いかけるスピードは速い。

 なお、前回と今回のレポートは、トヨタ財団による「国際助成プロジェクト」(2015年度と2016年度)の日本側チームの一員として参加した際の取材によるものである。

(福祉ジャーナリスト 浅川澄一)