「常に優良物件を購入できるよう1000億円以上用意をしている」――。

 米国系不動産ファンド「ラサール インベストメント マネージメント」の中島康雄日本法人代表は「大震災の影響は短期かつ限定的」と日本の不動産投資への積極姿勢を崩さない。

 なかでも注目しているのが、倉庫を中心とした物流施設。実際、震災直後で不動産取引が縮小していた5月に、ラサールは三菱商事系ファンドと組みサッポロビールが所有していた千葉県習志野市の物流施設など二つの大型物件を取得した。

 日本の物流施設に注目しているのはラサールだけではない。ここ数年、オフィスビルや住宅への投資が停滞していた中でも、シンガポール系ファンドなど海外勢は物流施設への投資を活発化していた。その勢いは震災を経ても止まることはなさそうだ。

 ファンドは物流施設を所有した後、企業に貸し出し賃料収入を得る。物流施設はオフィスのようにテナントが活発に移転せず、賃料のブレも少ないことで収益の安定性が高い。総収入(賃料)に占める清掃や警備などの共益費用は、オフィスビルの35~40%に対し、物流施設は20~25%と低い。収益性が高いため、物件の値上がり益を狙うのではなく、安定配当を狙う投資家に適しているといわれている。

 このため欧米では物流施設はオフィスや商業施設と並ぶ人気のある投資先となっている。多くの不動産ファンドが物流施設を組み入れており、物流施設専用ファンドも多数ある。

 ただ、これまで日本では、物流施設に特化した上場不動産投信は「日本ロジスティクスファンド」1社だけで「欧米に比べ(物流施設への投資に対する)認知度が低かった」(藤田礼次・日本ロジスティクスファンド社長)。しかも、日本経済の低迷、産業の空洞化で国内の物流施設全体の需要は縮小傾向にある。

 では、なぜ海外勢は日本の物流施設に大金を投じるのか――。じつは、ファンドが投資対象としているのは、大量仕入れ・大量発送や、個別包装の実施・受注後の即日発送など高度な仕分け業務を効率的に行い、物流を効率化する「大型高機能型物件」だ。柱と柱の間隔は10メートル以上で、高さは5.5メートル以上が必要で、フォークリフトが自在に走れるオフィスビルの5倍程度の耐荷重性能も求められる。加えて、仕分けや発送作業に携わる数百名の従業員のための衛生的なオフィスや食堂も備えているなど、付加価値の高い建物である。

 今、こうした大型高機能物件の賃貸需要が大きく増えつつある。そこには、二つの理由がある。

 一つは、企業が資産を圧縮し、物流を効率化しようとする動きだ。「生産地を中国から国内へ回帰させたり、またその逆であったりと(企業活動の)変化が早くなり、自社で保有し20~30年も使う倉庫では、変化に対応できないと感じている」(中島代表)。

 もう一つは、通販業など新たな需要を生む業態の成長だ。通販業では倉庫そのものが店舗であり、その効率性が競争力に直結するため、どの業態よりも高機能な物件を求める傾向が強い。

 需要が増える一方で、「(大型)高機能型物件はまだまだ供給不足」(中島代表)である。日本には倉庫が大小あわせて延べ床面積で約1億3800万坪あるが、大型高機能物件は、全体の2%強、約300万坪しかない。金融危機以降は新規建設が滞っていたこともあり、需給の逼迫度は増すばかりだ。

「企業では震災を機に物流機能を見直す動きが活発化している」(藤田社長)ため、大型高機能物件の市場は一段と盛り上がるという声が多い。日本の不動産投資ファンドはオフィス、商業施設、住宅に偏重しているが、今後は物流施設への投資を検討する投資家が増える可能性が高い。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木豪)