
セブン&アイへの買収提案をカナダのコンビニ大手が撤回した。しかし、同社の先行きは全く楽観できない。稼ぎ頭の北米コンビニ事業を切り離すなら、海外戦略をどのように描き直すのか。セブン&アイは国内外で小売業界再編の主役にも、あるいは再び買収のターゲットにもなり得るのだ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
セブン苦肉の策?「クラウンジュエル作戦」とは
セブン&アイ・ホールディングスに対する買収提案を、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールは7月16日、撤回した。クシュタールはその理由を、「セブンの非建設的な姿勢」と批判した。しかし、本当にそれだけなのだろうか?
クシュタールの提案にセブン側の拒否反応は強く、交渉は長引き、クシュタールはこれ以上時間を使っても期待した結果は得られないと判断したのだろう。ただそれ以上に、クシュタールの狙いだったセブンの北米コンビニ事業を、セブンが新規株式公開(IPO)すると方針転換した点は見逃せない。
近年、セブンの業績拡大は北米コンビニ事業がけん引してきた。ところがセブンは、最も重要な資産(宝物=ジュエル)である、北米事業をIPOによって本体から切り離す。M&A対応策としては古典的な「クラウンジュエル作戦」と呼ばれるものだ。今回も、クシュタールの買収意欲を少なからず減退させたとみられる(詳細は後述)。
他方、買収提案が撤回されたことでセブンは「これで、ひと安心」というわけではない。セブンの判断が正しかったと利害関係者から評価されるためには、企業として好業績を維持し成長することが求められる。
国内は不採算店のリストラを進めながら、物価高もある中でいかに顧客をつなぎとめるか。そして海外戦略は根底から練り直す必要があるだろう。消費が拡大するであろうアジア新興国への積極的な出店が選択肢になるはずだ。
国内、海外ともに事業の収益性が高まらないと、再度セブンが買収を仕掛けられる可能性は十分想定される。この先数年間で他業種も巻き込んだグローバルな小売業界再編が進むとみられ、いろいろなことが目まぐるしく起きるだろう。セブンとて生き残りは容易ではない。