長時間インタビューの後に送られてきた
びっしり書かれた長文ファックス
――本の執筆のためにドラッカーにインタビューをしましたか。
かなり長時間行いました。インタビューの後に、よくファックスが送られてきました。当時はインターネットがありませんでしたから。行間をあけずにびっしり書いてあり、そこでさらに自分の考えを展開していたのです。
カリフォルニア州クレアモントにある彼の自宅でインタビューしたこともあります。2人で散歩を始めると、彼は3時間もしゃべり続けました。質問は2、3点でしたが、彼には質問する必要がなく、ただ自分の考えをずっと展開し続けるのです。エピソード、パラダイム、歴史上の比較、A会社がどうして成功し、B会社は失敗したか、そういう話も立て板に水を流すように話してくれました。
――ドラッカーは企業のCEOになったことがない、つまり会社を経営したことがないと思いますが。
1回もありませんね。私が知っている限りビジネス界に入ったことがありません。もちろん本はたくさん売れましたが、そういう意味では小規模のビジネスマンです。
ドラッカーは行動する人ではなく、思想家です。もし行動していたら、ルーティンに飽きていたと思いますね。知的なチャレンジに挑み、経済界に何が起きているのか、新しいアイデアを見つけることに興奮したのです。
――普通、書き手というのは、自分のCEOとしての経験に基づいて書くのではないでしょうか
そうです。でもドラッカーは会社を観察するという経験を持っています。ゼネラル・モーターズはビジネスを精査してもらうべく、彼を雇いました。彼はそれをまとめて、1940年代に『企業とは何か』という本を上梓しました。他の大企業のコンサルタントもやりました。
当時は経営についての本がなく、経営者も自分がボスなだけでテクニックはない。経営が重要だとは考えられていなかったのです。
ドラッカーはそれに対して、ノーと言いました。ドラッカーは経済においてもっとも重要な人は経営者であると言ったのです。というのも経営者がビジネスを成功させない限り、我々の生活はすべて貧困になり、システムが崩壊するからです。
彼の脳裏には常に、経済システムの崩壊がファシズムにつながった1930年代のヨーロッパでの経験がありました。