――それは作家としてですか? 経済学者としてですか?

 経営のグールー(教祖、権威者)としてです。経営に関する賢者として有名でした。ゼネラル・エレクトリックのジャック・ウェルチなど著名なCEO達は、ドラッカーの教えに恩義を感じていると言っています。それほどアメリカで有名でしたが、日本とは少し違っています。

 それは、ドラッカーのアイデアはアメリカよりも日本で実践されていることが多いのです。シェークスピアの言葉を借りれば、「アメリカでは、ルールを守ることよりも破ることに名誉がある」ということでしょう。つまりアメリカ人はドラッカーの教えを知っているが、破ることが多かったということです。

難解なことを人の心に響かせる天才だった

――ドラッカー自身やその作品について書こうと決めた後はどうしましたか。

 私はただドラッカーに執筆を手伝ってほしいと頼みました。すると彼は、「正しい事実を教えることはしましょう。あなたの解釈について、あっているとか間違っているとか言うのは私のやるべき仕事だとは思わない」と言いました。さらに「私の個人的な生活に関する質問には耐えられないが、私の思想についてならいい」と言ったのです。

 それは私の意向に合っていたので、当時29冊くらいあった彼の著書をすべて読破しました。彼についての本もたくさん読み、ドラッカーの思想を時系列に拙著の中で展開していったのです。

 私はドラッカーを経営についての思想家として、さらに社会についての思想家つまり社会哲学者として扱いました。ドラッカー自身は、自分のことを社会生態学者と呼んでいました。

――ドラッカーの著書を読破してみて、そのすべてに共通する世界観は何でしたか。

 それは質問が難しすぎますね。月並みな答えですが、書き手として優秀で、読者を楽しませる才気煥発な人だと言えます。ドラッカーは難解な概念やテクニカルな内容を取り上げて、人の心に響かせることができます。哲学者についてもわかりやすく書けます。キルケゴールについてのすばらしいエッセイもあります。

 つまり、書き手としていかに優秀だったかということが私の印象に強く残っています。それが彼の成功の秘訣だったと本当に思います。

 文章が簡単というのではありません。ドラッカーはジェーン・オースティンのような最高の作家と同じようにウィットに富んでいます。彼の文体は非常に魅惑的で、経営の門外漢でも楽しむことができます。それこそ、彼の本すべてに共通することだと思います。しかも書かれた英語は彼の母語ではないのですから驚きです。