「おせんべい採用」をご存じだろうか。これは、新潟県にある菓子メーカー、三幸製菓の採用手法の一つとして注目されたもので、三幸製菓の主力商品であるおせんべいに対する「おせんべい愛」をプレゼンし、その内容で採用を判断する、というものだ。三幸製菓は知名度が高くなく、地方企業であるなど、企業の採用条件としては極めてデメリットを多く抱えていたが、それを逆手にとり、独自の採用戦略で自社に必要な人材を獲得できる企業となった。その採用戦略を築いたのが、今、人事・採用コンサルティングを行なっている杉浦二郎氏。この連載では、採用に苦戦する企業が採りたい人材を採るためには何が必要なのか、杉浦氏の三幸製菓での採用経験談から考えていく。

地方企業の採用の実態とは?

 私は以前、三幸製菓という企業に所属し、約10年間にわたり採用責任者を務めていました。三幸製菓は新潟にある地方の製菓メーカーであり、企業知名度はそれほど高くありません。他社の大手製菓メーカーだと、どの企業も学生認知度は90%近くありますが、当時の三幸製菓は25%程度でした。

 一見すると、知名度が低いことは、採用活動にとっては大きな逆風です。しかし、「知名度が低いことは必ずしもデメリットではない、むしろ自社の位置づけをハッキリすることができる『資源』という観点でとらえるべきである」ということを、三幸製菓の採用で実感しました。そのときの経験をこの連載ではお伝えしていきます。

 私が採用業務の責任者として全てに関与し始めたのは2006年頃、それまで総務のなかの一部門であった人事セクションが独立し、人事業務を専門に行う部署が立ち上がる時でした。それまで、総務部メンバーとして人事領域に兼務で関わっていましたが、人事セクションの専任として異動が命ぜられました。

 当時のメンバーは、私と入社したての新卒社員だけ。実質、ひとり人事部という状態でした。毎月の給与計算、年2回の賞与計算、人事評価、労務管理、研修、異動、社会保険手続など、各種の業務を行うなかで、採用業務にもより深く関わっていくことになりました。

 決して、採用の仕事のみ行っていたわけではありません。地方に本社を構える中堅企業は、人事機能は経理機能と共に総務という枠組みのなかに位置づけられ、一人何役もこなし、採用業務もその人事機能のなかのひとつ、というのが実態だと思いますが、三幸製菓もまさにそのとおりでした。