ドッグイヤーならぬ100倍速で変化するインセクトイヤーにあって、米国では秒単位のトレーニングが横行し、わが国でも1デイリクルートにトライする企業が増えてきている。30秒トレーニングや1デイリクルートの是非が議論され始めているが、議論すべき論点はどこにあるのだろうか。(リブ・コンサルティング人事部長兼組織開発コンサルティング事業部長 山口 博)
1クリックトレーニングに1デイリクルート
短縮競争はどこまで続くか
技術革新による変化の激しさを例えて、「われわれはドッグイヤーのまっただ中にいる」という表現が用いられる。イヌの1年がヒトのおよそ7年に相当することから、7倍の速度で成長や変化をしているという意味だ。今日ではさらに加速し、ラットイヤー、ひいては、インセクトイヤーという言い方もされる。
ラット(ねずみ)の1年は人のおよそ20年、インセクト(昆虫)の1年は人のおよそ100年(蚊の場合)に相当するだろうことから、20倍、100倍の速度を示す。スピード経営を示す際に用いられる比喩だ。
トレーニングプログラムにおいても、スピード化の傾向が見られる。ケン・ブランチャードが「1分間マネージャー」を世に出したのは1982年だが、今日では、30秒トレーニングや10秒トレーニングと、もはや秒単位で競走しているかのようだ。
ついには、1クリックトレーニングまで登場した。これは、スマートフォンをクリックすることは確かに一瞬であるが、その後の修得には、ある程度の時間をかけるというトレーニング形態だ。日本でもスピード化の流れはあるが、それ以上に米国では、この傾向が顕著だ。
採用の領域も時間短縮がトレンドになっている。例えば、これまで応募からオファー提示まで2ヵ月かけて進捗させていた中途採用プロセスを、1ヵ月以内で進めようとしている企業は多いし、応募から複数回の面接を経て採用決定までを1日で完了させようという、1デイリクルートを実施する企業も日本で出始めている。
スピード経営は、はやりのキーワードとなっており、どこまでいくのかというほどに、時間短縮競争の様相を呈している。驚異的に加速している環境変化に対応していくためにスピード経営が不可欠だと言われれば、誰も二の句を継げない。しかし、スピード経営の流れに逆らう声なき声がある。それは人事部が発している声だ。