妻に先立たれた夫も直面する
「収入ダウンの崖」

 次は、Aさんが妻に先立たれた場合を見てみよう。

 夫婦2人のときに世帯で約276万円の年金収入があったのが、妻死亡後は約198万円。夫が先立つ【ケース1】の168万円に比べると、Aさんが受け取る年金額はやや多いが、それでも年198万円だけでは暮らしていけないだろう。

 妻に先立たれ、食事の支度ができない男性が1人残されると、生活費が膨らむケースが多い。何年か前、年金生活がスタートしてわずか1年で奥さんを病気で亡くしたという男性が相談に来たことがある。家計の状況を見せてもらうと「1ヵ月の食費の予算」、「週末1回だけの外食(夕飯)の予算」とある。

「お食事、ご自分で作っているのですか?」と尋ねてみると、「料理を作ったことがなかったもので、妻が亡くなったあとは、毎日外食とコンビニ弁当ばかり。そんな生活をしていたら、年金では支出が賄えなくなり老後資金がどんどん減って、通帳見たら怖くなっちゃって。それから料理の本を買い込んで、自炊をがんばっています。六十の手習いってやつですよ。土曜日だけは、近所の居酒屋で一杯飲む。これくらいの楽しみがないとね~」。

 支出状況を把握し、大幅な赤字という現実に目を背けず、家計の立て直しをしたその男性は、とても立派だと思い、そのように伝えた。夫婦2人分の年金を受け取れたのはわずか1年だったので、「ひとり分の年金で、この先も大幅赤字が数十年続いたら、お金が足りなくなる」と危機感を持ったのだろう。

 一般的に男性は女性に比べて、現役時代の収入が高く、働いていた期間が長いため、女性より年金額は多い。それでも「ひとり分の年金」になると、年金だけで支出を賄うのは難しいのが現実だということを知っておいてもらいたい。