ギリシャ債務問題が再燃し、欧州経済への不安が高まっている。日本もそれをきっかけに円高が進行し、7月12日には終値は1ドル78円台半ば、1ユーロ110円台後半と、現在も東日本大震災発生直後のような高値が続いている。昨年春のギリシャ危機以降、同国には欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)による支援が行われてきたが、今なぜ再びギリシャ債務問題への懸念が高まっているのだろうか。その背景にある支援スキームと欧州の共通通貨・ユーロ自体が抱える問題点とともに、ギリシャ問題が今後の世界経済、そして震災復興に動き出した日本経済にどのような影響を及ぼす可能性があるか、日本総合研究所 欧米経済市場グループ長の牧田健・上席主任研究員に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)
緊縮財政が景気悪化を招き、財政赤字はより増加
悪循環に陥ったギリシャ、アイルランド
――現在、ギリシャ債務問題が混迷を深め、欧州経済全体に不安が広がっている。なぜ今再び懸念が高 まっているのか。
ギリシャは昨年春以降、財政赤字を減らすために緊縮財政を続けており、それによって景気は悪化、税収が下振れることで財政問題が全く改善しないという悪循環に陥っている。実際、ギリシャのGDP成長率は2010年から一貫して大幅なマイナス成長であり、若年層の失業率は38.5%に達している。もし追加の歳出削減などを行えば、政治的な混乱が発生する恐れさえある。
昨年の5月にギリシャは、2012年春からの市場調達再開を想定していたが、財政が全く改善しない状況のため、市場復帰が絶望視されている。本来であれば、12~13年中に市場で調達する予定だった約600億ユーロをどう確保すべきかが差し迫った問題になっている状況だ。
――ギリシャだけでなく、他のPIGS諸国(ポルトガル、アイルランド、スペイン)、そしてイタリアにも債務問題の波及が懸念されている。
ギリシャ以外のPIGS諸国も、緊縮財政をとっており、ギリシャ同様の悪循環に陥っている。本来なら、通貨安や金融緩和という景気を下支えするようなメカニズムを利用することができるが、統一通貨ユーロの導入により金融政策や為替政策の自由度は失われてしまっている。そのため、もはやこの問題は、ユーロ圏全体で支えねばならない状況だ。
しかし、今回のギリシャを巡る各国の動向を見る限りは、ユーロ圏が一枚岩となって支える構図にはなっていない。アイルランドやポルトガルも追加支援を余儀無くされ、ギリシャと同じような状況に陥る可能性があるだろう。