3度のQEの結果、米国内外に供給されてきたドル資金の全体量は、リーマンショック直後の3.5兆ドル程度から、2013年下旬には7兆ドル程度に増加した。その後も、FRBは満期がきて償還された債券の元本を再投資してバランスシートの規模を維持してきたため、基本的にドル資金は潤沢だ。

 一方で、世界経済の潜在的な成長率(需要)は、先進国を中心に低下基調を辿っている。多くの企業は設備投資に慎重だ。そのため、資金が金融市場に還流しやすい状況が続いてきた。

 これが、カネ余り=過剰流動性だ。

 そこに先行きへの強気な見方が加わると、金融資産の価格が理論的に説明できないほどに上昇する“バブル”のリスクが高まる。実際、米国の株式市場でバブルが発生していると考えるエコノミストは多い。

 その他にもカネ余りが、中国経済の先行きが不透明な中で、新興国の株価上昇などにつながっていると考えられる。米国でもジャンク債の価格が上昇し、株価も、投資家の強気心理を反映して高値水準を維持している。それに影響されたビットコインをはじめとする仮想通貨の急騰など、カネ余りは金融市場・経済に“歪み”を蓄積させていると考えられる。

過剰流動性の吸収を急ぐ
バブルのリスク、一方で景気腰折れのリスク

 当初、FRBはバランスシートの圧縮を開始するタイミングを、今年の後半としてきた。それが5月には年内の開始に修正された。その上で今回、FRBは金融政策の正常化を優先し、段階的に償還金の再投資を削減する方針を示した。どちらかというとFRBは政策の正常化を急ごうとしているとの印象さえ受ける。

 FRBが急いでいると仮定すると、その理由は景気への不安があるからだろう。

 中央銀行がカネ余りを放置すると、経済の歪みがピークになりバブルの崩壊などの厳しい状況に直面する恐れがある。

 同時に、リーマンショック後の深刻な景気の落ち込みを経験したFRBにとって、急激な金融引き締めで景気の腰を折ることがないように慎重に政策運営をして、どちらかと言えば緩和的な金融市場の環境を支えることも重要だ。

 このジレンマの中で、これまでのFRBは利上げを進めつつも、償還される債券を再投資し、どちらかといえば緩和的な金融環境を支えてきた。

 しかし、米国の景気回復の動きは、徐々に伸び悩みつつあるように見える。

 年初来、米国の新車販売台数は5ヵ月続けて減少している。失業率の低下にもかかわらず時間当たりの賃金は増加していない。個人消費支出の物価指標も伸び悩んでいる。

 今すぐにではないものの、米国の景気回復が徐々にペースダウンしていく恐れがあることは排除できない。

 もし、市場参加者が、FRBが景気のもたつきを懸念するあまり金融政策の正常化を躊躇していると判断すれば、短期的に米国株式市場の過熱感が追加的に高まるかもしれない。それは、バブルのリスクを一段と上昇させるだろう。

 その展開を避けるために、FRBは景気回復のモメンタム(勢い)があるうちに、利上げに加えてバランスシートの圧縮を進めようとしていると考えられる。それが進めば、FRBは将来的な金融緩和の余地を確保することができる。