日銀が出口戦略に着手すると長期金利が上昇して経済が混乱する、と人々を脅えさせるストーリーが語られる。これは、今、長期金利が上がると困ると感じている人が大勢いるからだ。しかし、本当に長期金利は恐ろしいほどに上昇するのだろうか。
日銀が大量に長期国債を買い始めたのは、黒田日銀の体制になってからだ。それまでは銀行が主要な国債の買い手だった。銀行は集まった預金を貸し出しに回せない分、消去法的に余裕資金を国債購入に回していた。つまり、貸し出しがそれほど増やせないという前提があって、国債に巨大な資金が集まっていた。だから、景気が回復して企業向けの貸し出しが増えると、国債価格が急落(金利が急騰)するという理屈である。
だが貸し出し、すなわち企業の資金需要が旺盛に伸びなければ、やはり資金が債券市場に滞留する構図は変わらないかもしれない。
企業の資金需要は弱い
景気循環とは独立した構造変化
インフレになれば資金需給が逼迫して、銀行が国債を積極的に買わない状態になるだろうか。これは、銀行の貸し出しが活発に増えることを想定している。確かに、物価が上昇すると、企業の仕入れコストは増えるし、また在庫が売れて現金が手に入るまでの運転資金は増える。
だが一方、設備投資も同様に活発化するかどうかは見通しにくい。物価が上昇すると、企業収益も増えて内部資金も利用しやすくなる。借り入れなどの外部資金への依存度は逆に低下する可能性がある。また、企業が資本ストックを借り入れをしてまで増やすかどうかもわからない。