欧米で先行導入が進むスマートメーター。次世代の電力インフラの“鍵”であり、コストや機能は十分検討が必要だ
Photo:AP/AFLO

 これでは、まるで“ガラパゴスメーター”だ──。全国の家庭やビルに取り付けられている約7000万台の機械式の電気メーターが、3.11以降、デジタル式の「スマートメーター」(次世代電力計)に急速に置き換えられようとしている。しかしその内実では、旧来の電力会社の独占体制を引きずった、電気メーターをめぐる課題が露呈している。

 スマートメーターとは、いつ、誰が、どのくらいの電気を使っているかリアルタイムに把握できる新しい電気メーターだ。これまで検針員が各家庭を回ってチェックしていた月々の電気使用量も、データ通信のみですむ。なにより時間帯ごとの使用量が測れるので、時間帯別の料金メニューが作れ、節電や電力需要のピークカットに役立つと期待されているのだ。

 そこで政府は7月29日、まだ90万台と試験導入レベルにあるスマートメーターを、今後5年間で推計4000万台(電力需要の8割分)まで一気に導入するプランを発表した。「スマートメーター特需」がやって来る期待感から、電気メーター製造を手がける一部メーカーの株価が上がるなど、盛り上がりを見せている。

 ところが、である。

 電力10社はこれまで、自社の“縄張り下”にある電気メーターについて、形状から仕様までバラバラに独自設計してきた。さらに各電力会社とパイプを持つ電気メーター5社(大崎電気工業、東光東芝メーターシステムズ、三菱電機、GE富士電機メーター、エネゲート)が、それぞれ受注シェアを分け合っており、量産メリットが生まれず「相対的に高い値段のままだった」(業界関係者)。これが多品種少量の“ガラパゴス”と呼ばれるゆえんだ。

 ここにきて「もしスマートメーターも“ガラパゴス化”したら、1台1万円前後まで下がった欧米の2~3倍の価格になり、導入コストが高止まりする」(経済産業省関係者)。実際に東京電力(1200台)と関西電力(79万台)が試験導入しているスマートメーターは別物だ。その理由の一つが、「メーターの標準化が進むと、電力会社ごとに抱えている技術者の仕事が減るから」といわれている。

 またスマートメーターから各家庭に電力使用データを提供する“ルート”の有無もポイントだ。将来的に、家庭のエコ家電や太陽光パネル、蓄電池などHEMS(Home Energy Management System)と組み合わせて、より高い節電効果を実現しようとする際、リアルタイムの電力使用データは不可欠だ。しかし電力事業の売り上げが下がったり、新しいサービスを提供する企業が現れる可能性があるため、情報独占を維持したい電力会社は「本音では反対している」と指摘する声は多く、いまだに機能として加えるかは決着していない。

 政府は今後、スマートメーター導入に向けて補助金も検討する模様だが、これらの課題解決なくしては「税金のムダづかい」の誹りを免れない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)

週刊ダイヤモンド