7月7日に日本銀行は、米欧の債券市場の動きにつられて上昇していた10年日本国債の金利を抑え込むため、「伝家の宝刀」とでもいうべき国債買い入れの「指し値オペレーション」を発動した。
通常、日銀が国債を市場から買い入れるときは、競争入札によって金利が決定されるが、「指し値オペ」の場合、日銀は購入したい金利水準を提示する。今回は0.11%だったが、これにより「10年金利の上限は当面0.11%」という日銀の意志が市場に伝わった。
ただ、日銀が10年金利をコントロールする政策は、実は矛盾を抱えている。理屈上は、「現在のようなマイナス金利政策および大規模な国債買い入れ策が、今後10年間継続される」と市場参加者に信じさせなければ、10年金利をゼロ%近辺に誘導することはできない。
他方で日銀は、できるだけ早くインフレ率を2%にするとアピールを続けている。
もしも市場が早期のインフレ目標達成を信じたら、「日銀は遠からず出口政策に向かう」→「長期金利は大きく上昇する」→「持っている国債を早々に日銀か他の市場参加者に売却せねばまずい」という連想が強まる。その場合、日銀が「指し値オペ」を少々実施したくらいでは、長期金利の上昇圧力は鎮められないだろう。
だが、これまでのところ、10年金利の誘導に日銀が成功しているのは、皮肉ではあるが、この政策の目的であるインフレ予想の押し上げに失敗しているからだと考えられる。大半の市場参加者は、「インフレ率の上昇は遅く、金融政策の正常化も遠い」と見なしているため、長期金利が制御不能になる事態は避けられている(冒頭で述べたように、今回の長期金利上昇は海外要因によるもの)。