「4時間後に紙幣が使えなくなる」インド経済をマヒさせた衝撃宣言インド人女性が財布から出してくれた、使えなくなった旧紙幣。亡くなった祖母からプレゼントされた形見のため、銀行で交換したくなかったという Photo by Izuru Kato

 昨年11月8日の午後8時、インドのナレンドラ・モディ首相は衝撃的な宣言を行った。1000ルピー札と500ルピー札は4時間後(9日午前0時)に法的通用力を失うという宣言だ(1000ルピーは現在のレートで約1750円)。

 それらの紙幣は、新しい2000ルピー札と500ルピー札に交換可能であること、同年12月30日までは銀行口座に入金できるとされた。政府の最大の目的は、地下経済のお金をあぶり出し、汚職を防止することにあった。

 しかし、この政策は人々の生活にすさまじい大混乱をもたらした。先日、当時ムンバイに住んでいたインド人女性に話を聞く機会があったのだが、この話を思い出すと怒りに身が震える様子だった。なぜなら、政府の事前の準備があまりにおざなりだったからだ。本来の目的とは異なって、貧しい人々ほど窮地に陥ったという。

 第一に、法的通用力を失ったその2種類の紙幣は、流通紙幣の86%を占めていた。しかし、銀行に口座を持たない人がインドには54%もいた(インド紙「ザ・ヒンドゥー」2017年1月28日)。

 その人々は蓄えを現金で持っていたわけだが、それが市中では突然、無価値になってしまったのである。銀行に行けば旧紙幣を新紙幣に交換することができたが、その額は厳しく制限された(制限の額は、当初は1日当たり、後に1週間当たりに変更)。