米国債デフォルトの可能性をきっかけに円高が進んだ。本稿執筆時点では、対米ドル76円台で推移している。今後を考えてみよう。

 本稿執筆時点で、米国債のデフォルトは当面回避されたが、今後、米国債の信用格付けが下がる可能性が残る。米国債が最上級格付けのAAAから滑り落ちると何が起こるのかは考えがいのある問題だ。

 米国債は内外の投資家が保有している。ヘッジファンドを含めて多くの取引の担保にもなっている。格下げされた場合に投げ売りされる可能性があるかもしれない。この場合、資産の一部が非ドル資産にシフトすると一時的に大幅なドル安を招く可能性がある。

 ただし、一時的に米国の長期金利が上昇するとしても、その長期金利の下で資金需要が十分あるとは思えない。加えて、後述のように米国が不況入りする場合には、長期金利はむしろ大きく低下する可能性がある。
今後心配なのは、失業率が高止まりし、不動産市況が回復せず、民間需要が低迷するなかで、政府の財政赤字削減が進むと、米国が不況入りするかもしれないことだ。

 さて、外国の投資家が米国債を投げ売りするなら、これはドル安要因だろうが、米国の長期金利の上昇はドル高要因だ。他方、米国の不況はおそらく米国への資金流入を減ずるのでドル安要因だと考えるのが妥当だろうが、財政赤字の縮小自体は将来のドルの価値を強化するはずの要因だ。

 株式の世界では、一つの事象が株高・株安どちらの要因になるのかがはっきりしている場合が多いが、為替レートの場合には、一つの要因が当該通貨の買い・売りいずれにも解釈できる場合が多く、先の読みが難しい。