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円高に歯止めがかからない。
円の対ドルレートは、8月19日のニューヨーク市場で一時1ドル=75円93銭を付け、戦後最高値を更新した。世界経済減速を懸念した投資家がリスク回避志向を強め、主要国で株安の連鎖が続くなかで資金の逃避先として世界最大の債権国である日本の円は買われ、上昇し続けている。
日本の政策当局は円高阻止に向けあの手この手を繰り出すが、効果は上がらない。8月4日に日本政府はドル買い円売り介入を実施し、日本銀行も量的緩和の拡充を決定したが、円相場は翌週初めには介入前の水準に戻ってしまった。財務省は24日、円高対応緊急ファシリティ創設を発表した。外国為替特別会計から1000億ドルを国際協力銀行に融資し、その資金を海外進出する企業に提供するというものだが、即効性はない。
同日にはムーディーズが日本国債の格下げを発表したが、為替市場はほとんど反応せず、円の対ドルレートは76円台で推移した。
一方、今後、さらに円高を進展させる材料には事欠かない。
円相場に大きく影響を与えるとされる米国の2年物国債金利は7月末の0.4%前後から0.2%前後に低下した。“質への逃避”で米国債が買われ、金利が低下していたところに、9日にFRB(米連邦準備制度理事会)が2013年半ばまでの実質ゼロ金利政策継続を示唆したことが拍車をかけた。この水準に見合うレートは70円台前半。円高が進む余地は十分にある。
株価の連鎖安は一服しているが、投資家が再度リスク回避志向を強める懸念はぬぐえない。
フィンランドはギリシャの第2次支援策に絡む同国のギリシャへの融資について担保をつけることをギリシャと合意した。これに対して他のユーロ圏諸国から「不公平」との声が上がっている。フィンランドのカタイネン首相は、「担保が認められなければギリシャ救済スキームから離脱することもありうる」と表明した。救済スキームが危うくなれば欧州の財政危機再燃は必至だ。米国経済減速を示す経済指標が発表されれば、これもまたリスク回避志向を強めるきっかけとなろう。世界同時株安の負の連鎖が再燃すれば1ドル=70円割れの可能性は十分にある。
そうなれば、日本の景気の頭打ちもありうる。サプライチェーンの急回復もあり、11年度の企業業績は「今後、75~76円台で推移するなら為替による減益要因をこなして増益を確保できる」(松浦寿雄・野村證券エクイティ・リサーチ部ヴァイスプレジデント)と見られる。しかし、世界経済減速からの70円割れとなると、円高による利益目減りと外需減少による輸出減で減益に転じる公算は大きい。
欧米発の世界経済減速という外的要因によるものだけに、日本に相場反転に向けた有効な手立てはなく、円高を甘受するほかない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)