今、住宅・不動産業界の中で、不動産管理ビジネスが注目されている。住宅の新たな供給が先細りするなか、既存の住宅の価値を活かす「不動産ストックビジネス」として、賃貸管理業、分譲マンション管理業などに対する将来性、ビジネスモデルの発展性に期待が集まっているのだ。

なぜこれまで不動産管理業界は
“魅力的な業界”ではなかったか

 しかし、これまで不動産管理業界は、それほど魅力的な業界とはいえなかった。その主な理由としては以下の2つが挙げられる。

1.業界トップ層に位置づけられる主要な企業の多くが、親会社からの供給、すなわち系列による受託という構造がスタンダードとなっており、純然たる市場競争が行なわれにくい環境にあった

2.提供するサービスそのものが、清掃や設備のメンテナンス、管理員の派遣といった契約で決まった内容を漏れなく愚直にこなすというモデルであり、極めて労働集約的かつ差別化がされにくい業界であった

 もちろん、これらの裏返しとして、安定的な競争環境、安定的なキャッシュフローの獲得という点が、本業界の最大の強みであるとも言える。しかし成長性や収益性の観点から見れば、今ひとつ物足りないことに加え、特殊な競争環境による弊害として新たなイノベーションやサービスが生まれにくいという弱みもこれまで指摘され続けてきた。

 業界全体を俯瞰すると、賃貸管理市場、分譲マンション管理市場のいずれにおいても、大手上位数社による寡占化の傾向はあるものの、1社単独の市場シェアは極めて低く、トップシェアでもその割合は10%にも満たない(そもそも賃貸管理市場については、管理会社に委託する賃貸住宅は全賃貸住宅のおよそ半分程度)。これらの業界は、小さなプレイヤーのクラスターで、大きなプレイヤーが存在しにくく、市場シェアの大部分や主要技術を占有する企業がない「市場分散型業界」の典型といえよう。

 一方で不動産管理ビジネスは「規模の経済性効果」を追求するべき事業でもある。すなわち、管理戸数、管理棟数が増大することによって、生産性が向上し、戸あたりや棟あたりに配賦されるコストが低減されるという考え方である。そうだとすれば、本来、管理業界は「集約と統合」を繰り返し、今以上に規模の経済を実現できるスケールをもった企業(例えば業界シェア25%を超える企業の存在)があらわれていてもおかしくはないはずだ。しかしながら、それは図らずも前述の系列による実質的な競争制限が業界内で発生しており、そのような状態には至っていない。

 このような実質的な競争制限は、結果的に市場の効率化を阻害し、業界全体としてみた場合のサービスを提供する側の利潤と、受ける側の満足度(価格に対して得られる価値)の合計を最大化する点において、むしろマイナス要因として捉えられる。