英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週も野田新内閣についてです。発足間もない内閣に支持率60%前後と出てそれがニュースになる日本の世論調査について。そして野田佳彦首相はホワイトハウスに行けるのか、もし行けなかったら、それは私たち国民のせいでもあるのではないかなどについてです。(gooニュース 加藤祐子)

何もしていないのに支持?

 まだ何の実績もない発足したばかりの内閣に、支持率60%前後という各社世論調査の結果が出ました。これは日本的なご祝儀感覚によるものなのか、首相が交代するたびに起きる、見方によってはきてれつな現象です。「期待しますか」と尋ねるならまだ分かる気もしますが、たとえば朝日新聞読売新聞による世論調査が尋ねたのは、そのものずばりの「支持しますか、しませんか」です。まだ何もしていないのに、支持するもなにも……。

日本のこうした世論調査と政治の関係については、(先週のコラムでご紹介したように)英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』が8月30日付の社説日本語訳はこちら)で批判した通りです。つまり、「もっとしっかりした政治指導者を求めるなら、国民の側ももっと我慢強くならなくてはならない。政党の側はあいまいな世論調査結果など無視するべきだし(日本ではその調査手法からして疑わしい)」と。

 実に、まだ何もしていない内閣をご祝儀的に持ち上げて、少し時間がたつと批判する。それを複数メディアが「世論の表れ」として大きく取り上げ、政界側は「こんな数字では選挙に勝てない」とトップ交代の画策を始める。こんなことで安定政権が続くわけもありません。

 AP通信のマルコム・フォスター記者も、共同通信が出した「支持率62.8%」を伝える記事で、「新首相の支持率は大抵、高めで出発するが、当初の蜜月期間が過ぎて国民がイライラし始めると、ひたすら下がり続ける」と説明。菅前首相の支持率は政権発足当初の60%超から20%以下にまで下がったとも解説しています(ちなみに昨年の読売新聞記事によると、鳩山政権は75%から24%へ。朝日新聞による歴代内閣の発足時支持率はこちら)。

 フォスター記者いわく、「日本ではマスコミが頻繁に世論調査を行い、国民はその結果を注視している。こうした世論調査が、そしてそれに伴いマスコミが、総理大臣の在任期間の長短に影響力を及ぼしすぎていると指摘する専門家もいる。(略)こうした世論調査が、日本政治の目まぐるしい変遷に寄与してきたという指摘もある」と。さらに「『首相の仕事ぶりを評価しますか』という質問内容はあまりに絶対的で、国民が少しでも政府に不満を持っていたら『評価しない』と答えやすいようにできている」とも批判しています。

 日本のような議院内閣制と、アメリカの(よほどのことがなければ任期が決まっている)大統領制と、単純な比較はできませんが、アメリカでは日々の支持率を気にしているのは政治家とそのスタッフであって、一般の有権者が気にするのは投票日に向けてか、あるいはブッシュ政権末期のように不人気な戦争を展開している時だけのような気がします。また、アメリカで指標とされる世論調査は多くの場合、各メディアがギャラップ社やピュー・リサーチなど、専門の調査会社と組んで行っています。

ホワイトハウスに行きたいかー

 ところで、先週のこのコラムでは、首相交代について『フィナンシャル・タイムズ』と米紙『ワシントン・ポスト』の社説をご紹介しました。タイミングや紙面の空き具合の問題かなと思いますが、米紙『ニューヨーク・タイムズ』が日本の首相交代について社説
を載せたのは、少し時間がたってからの4日でした。

 『フィナンシャル・タイムズ』社説の「Japan's Latest Leader(日本最新のリーダ-)」という見出しとよく似た、「Japan’s Latest Prime Minister(日本最新の総理)」という見出しです。「latest(最新の、もっとも最近の)」というこの単語が、目まぐるしく代わる日本の政治状況を一言で言い表しています。たとえば「the latest fashion(最新ファッション)」や「the latest fad(最新の流行)」といった言い方と、同じ用法です。

 この『ニューヨーク・タイムズ』社説は冒頭から、「2年前に日本の民主党を政権へ送り込んだ、改革の明るい期待感は、ほとんど残っていない」とばっさり。野田氏を選んだのは「国民ではなく党の政治家たち」で、その選択は「uninspired(パッとしない、わくわくしない)」し、日本が震災や津波や原発大災害や長期にわたる経済低迷から回復するために必要な「強力で創意工夫あふれる指導力を提供する選択とは思えない」とも。

 そして同紙は、国際法廷で裁かれた第2次世界大戦のA級戦犯は日本では犯罪者ではないという野田氏のその「後悔なきナショナリズム」が、中国や韓国との緊張感を悪化させるだろうと批判。また野田氏は米政府と友好関係を求めているが、「その地味な指導スタイル」ゆえに沖縄の米軍基地移設実現に必要な国民の支持をとりつけるのは難しいだろうと。「何より(野田氏が)日本の慢性的な経済問題に大胆な解決策を提示していないのがひどい」とも。さらに、野田氏が提唱する「復興増税は、日本経済が力を回復するまで先送りするべきだ。現時点では日本を今以上の景気後退に陥れ、世界経済を後退させるだけだ」と、その実施に反対しています(後述する経済メディアとの違いをご覧ください)。

 そして同紙社説は、日本で回転扉を出入りするように交代する総理大臣について、「ワシントンは辟易としている」と。「今月の国連総会に出席する野田氏を、オバマ大統領はホワイトハウスに招くべきだ。対中関係をどう管理するか話し合う必要があるし、北朝鮮の核開発をどう後退させるか、世界景気の二番底をどう防ぐか、話し合う必要がある。国連会議の傍らで儀礼的に会うだけでは、とても足りない」として、両国の課題は山積しているのだと警告します。

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