「迷惑をかけない」は世界共通の美徳である

 では、ダメージコントロールにおいて重要なことは何か?
 自分を守ろうとしないことです。自分を守るのではなく、誰かに及ぼす迷惑を最小限にすることだけを考えるのです。「迷惑をかけない」というのは世界共通の美徳。それを徹底するのが、大きな失敗から小さな失敗まで、すべてのダメージコントロールに共通する根本なのです。

 だから、私はこれまで約20社の失敗を経験してきましたが、すべての債権者に全額を補償してきました。

 もちろん、テクスケム・グループは株式会社ですから、法律上はその義務はありません。華僑の仲間からは「バカなことをしている」と言われることもあります。しかし、どんなに誠実に仕事に取り組んでいたとしても、事業の失敗は私の能力や運の欠如の結果です。事業を始めたときに、私や会社を信頼していろいろな資材や役務を供給してくれた人々に対して、どんな理由であれ迷惑をかけてはいけないと思うのです。

 誤解していただきたくないのですが、法律に従って廃業したり倒産したりしている事業家を批判する意図はまったくありません。私は異国で事業を展開しているので、法律に従うだけでは足りない。現地の人々に事業家として信頼していただくためには、どんなに大きな負担になろうとも全額返済をすべきだと考え、それを愚直に実行してきたのです。

 美談を語っていると思う人もいるかもしれませんが、そんな意図もありません。異国で生きるために、必要に迫られてやっていることなのです。

 ただ、その結果、数々の失敗をしてきましたが、いまでは非常に仕事がしやすい環境に恵まれています。私が新しい事業を始めると、協力してくれる人が大勢集まってくれるからです。「担保をとる」「信用状を寄越せ」などと言われることもまったくありません。それは、自分を守るためではなく、周囲に迷惑をかけないことをダメージコントロールの基本に据えた対応を徹底してきたからだと思います。