失敗を「チャンス」に変える秘訣
雇用についても同じです。
廃業したり、事業を他社に売り渡すときにも、社員たちの雇用を死守してきました。
かつて、テクスケムが手掛けて大成功を収めた事業がありました。しかし、あるときイノベーションが起こり、その変化に対応するためには多大なコストを負担しなければならない事態に陥ったことがあります。
その事業は、強い思い入れをもっていたために非常に悩みましたが、グローバルな競争環境を考えれば、私たちの資本力ではとても勝ち残れないと判断せざるを得ませんでした。そして「無念だが、事業売却せざるを得ない」と決断。いくつかの会社に打診をして、日本、アメリカ、インドの大企業からオファーがありました。
そのなかで、金額的に最も好条件を示したのはアメリカ企業でした。しかし、私は古くから付き合いのある日本企業に売却することにしました。アメリカ企業に渡してしまったら、当時5つの工場で働いてくれていた約2000人の従業員がどうなるかわからないと考えたからです。
事業売却せざるを得ない状況になったのは私の責任です。その結果、何の責任もない従業員に迷惑をかけるわけにはいきません。しかも、私は異国人ですから、労働者の不信を買えば大きなダメージを受けるでしょう。だから、金額的には不利な条件でしたが、従業員の雇用維持を条件に日本企業に売却することにしたのです。
このように「迷惑をかけない」ためのダメージコントロールに注力してきたために、社会的にも「次のチャレンジ」を応援していただけるポジションに立つことができました。いや、むしろ、応援してくれる人がたくさん現れました。その意味で、ダメージコントロールさえしっかりすれば、失敗はチャンスのもとになるのだと思っています。
これは、コトの大小に関係ありません。
仕事をしていれば、大小さまざまな失敗をします。
そのときには、すぐに過ちを認めること。そして、ダメージコントロールに全力を注ぐこと。そのときはつらいですが、それを徹底できれば必ず道は拓けます。重要なのは、自分を守るのではなく、周りの人々を守ることです。その結果、いずれ周りの人があなたを守ってくれるようになるのです。これが、着実に出世する人の重要な鉄則なのです。