生煮え代表選挙の「つけ」

 野田新総理は、民主党代表選で増税の必要性を訴えて当選し、総理の座についた。増税を訴えて総理になった例は自民党にもなく、おそらく初めての政治家ではないか。

 私は、この出来事の背景には、国民の過半が感じている、「いずれ増税はやむを得ない、そのことを正直に語る政治家を選ぶべきではないか」という意向が反映されたのではないかと考えている。その証拠に、就任早々に行われた新聞の世論調査をみると、総理支持率は6割を超えるものであった。

 そうはいっても、増税への道は簡単なものではない。党内には本音で増税反対の議員が多く残っている。前回のこの欄「民主党代表選では、党内融和優先ではなく政界再編の先駆けとなる政策論争を」で指摘したように、代表選で政策議論を徹底的に尽くさず、生煮えのまま選挙だけを行った「つけ」ともいうべきものが今後顕在化する可能性がある。増税に向けて党内の意見を集約することは容易ではない。

 自民党も、簡単には政策協議に応じないであろう。そもそも大平内閣、中曽根内閣、細川内閣という3代の内閣が、増税を志しながらもとん挫し、内閣の命を絶つ要因となったことからもわかるように、常に増税はホットイシューだ。

 望みは、野田総理の演説のうまさである。増税については、国民がやむを得ないと思うかどうかが決定的に重要である。たとえば復興増税についても、あれだけ民主党代表候補は反対したにもかかわらず、国民世論はむしろ賛成意見のほうが多い。このことは、いかに政治家が増税から逃げてきたかということを物語っている。

 その際重要なことは、国民の説得には、一体改革についてのもっとわかりやすい説明と、一層の歳出削減や社会保障改革の具体案を示す必要がある。消費税率を5%引き上げなければならない根拠についての説明は、あまりに複雑で、現状では国民に全く浸透・理解されていない。