なぜ金の価格がこれほど上がるのか?
説明のために筆者が用意した「2つの回答」
「何故、金の価格がこれほど上がっているのですか?」
最近、金価格上昇について尋ねられることが多い。そのときのために答えを2つ用意している。
1つは、あまりショックに強くない、つまり穏当な説明を期待する人への答えだ。「経済の先行きが不透明なので、投資資金が他に行くところがなくて金に回っているのでしょう」という説明である。
それは、今起こっていることの一端を言い当てているはずだ。しかも、説明を聞く人にとって、それほど刺激的ではないだろう。
もう1つの答えは、「金価格の上昇は、裏を返せば通貨、特に基軸通貨であるドルの価値が下落しているということ」という説明である。
そう答えると、多くのケースで、「まだドルの価値は下がるのだろうか?」という質問が来る。それに対しては、「米国の経済状況次第ですが、個人的には、まだ下がる可能性は高いと思う」と答えることにしている。
もともと金に対する人々の憧憬=憧れの感情は強い。そのため、金に対する需要は安定している。需要が安定しているから、その価値が変わりにくいのである。
かつて通貨は、その金の価値の安定性に助けられていた時期がある。金本位制の時代だ。通貨自体を金で鋳造したり、通貨と金との交換を保証したりすることで、通貨の価値を一定に保つ仕組みだ。
ところが、金の産出量は限られているため、経済の規模が拡大すると通貨の増発に制約がかかることになった。つまり金の供給が、経済の拡大のペースに合わなくなってしまったのである。それは、経済の成長を制約することにもなりかねない。
1971年8月、いわゆるニクソンショックによって、米国のドルが金との交換を停止して以来、基本的に全ての通貨は金とのつながりを解消したことになる。逆に言えば、それぞれの国の通貨はドルとの交換比率を表示することで、その価値を表現することになった。