だれよりも熱心に環境経営に取り組んできたと自負する企業が、自然破壊の元凶として非難の矢面に立たされる。ニューハンプシャー州に本社を置くブーツやアウトドア用品メーカーのティンバーランドは、そんな悪夢に見舞われた。ある日、6万5000通もの抗議メールがいっせいに送られてきたら、リーダーはどのように対応すればいいのか。反論や弁明をするのか。いわれなき中傷として無視するのか。

同社のCEOジェフ・シュワーツは、問題発生の日から、不安や葛藤、困難を乗り越えながら、大切にしてきた価値観に基づいて行動し、他社に倣った調達先の変更ではなく、困難なトレーサビリティの確保に挑み、対話を重ね、グリーンピースから一定の評価を勝ち取った。1つの対応ミスがブランドを根底から揺るがしかねない緊張の顛末を綴った。

ある朝突然、抗議のメールが殺到した

 今日がどんな1日になるかは、朝起きて届いたメールの数を確認すれば、おおむね予想できる。私は割と早起きなので(たいてい午前4時に起床)、メール処理で先手を打つことが多い。だが、2009年6月1日はいつもと様子が違った。次から次へとやむことなくメールが押し寄せたのである。

ジェフ・シュワーツ
Jeff Swartz
ティンバーランドの社長兼CEO。

 最初のメールは冒頭から、ティンバーランドが強制労働を支持し、アマゾンの熱帯雨林を破壊し、地球温暖化を悪化させていると非難していた。二番目のメールもそっくり同じ内容で、その次も、そのまた次もそうだった。これは長い1日になりそうだ、という嫌な予感がした。

 メールの発信元は、アマゾンの森林破壊に関するグリーンピースの最新報告に反応した、同団体の支持者だった。報告の主旨は次のとおりだ。

 (1)ブラジルの畜産農家が牧草地を開拓するために、アマゾンの熱帯雨林を違法に皆伐している。(2)その牛の革が靴の材料に使われ、ティンバーランドなどの製品になっている。(1)と(2)から導き出される結論として、(3)ニューハンプシャー州の靴メーカーが環境を破壊している。そして、非難の矛先は我々に向けられた。

 メールの送り主たちは不買運動の圧力はかけていなかったが、「懸念」を表明し、我々にグリーンピースと協力して森林破壊と気候変動に対する「永続的なグローバル・ソリューション」を模索するよう迫った。

 私は一経営者として「お前は私が反対する○○を支持している。だから愚か者だ」というような苦情メールを受け取ることには慣れていた。

 しかし、今回はそれとはわけが違う。メールの文面は、たとえグリーンピースのウェブサイト上のひな形を利用しているにせよ、きちんと書かれたものだ。しかも、送り主は有力な活動家団体であり、私にはあまりなじみのない問題を提起している。起き抜けのぼんやりした頭でも、それがよくない組み合わせであることは理解できた。

 我々は午前中の予定をすべてキャンセルした。問題発生である。