あまり知られていないが、1935年から36年間にわたり、東北大学名誉教授・近藤正二医学博士は日本全国990の町村を歩いて回り生活様式を調査した。驚くべきことに、そのフィールドワークによる調査報告は、最近の医療データと合致することが多い。近藤博士がまとめた「長寿の秘訣」とは何か? 20万人以上の臨床経験と、生化学×最新医療データ×統計データから、医学的エビデンスに基づいた本当に正しい食事法をまとめた牧田善二氏の新刊『医者が教える食事術 最強の教科書』から、内容の一部を特別公開する。

36年間、日本全国で調査された「長寿の秘訣」
――近藤博士のフィールドワークと最新データとの驚くべき共通点

 いまから45年も前の1972年に『日本の長寿村短命村』(サンロード刊)という本が刊行されました。著者は、東北大学名誉教授の近藤正二医学博士です。

 博士は、1935(昭和10)年から36年間にわたり、日本中を歩き、長寿者が多い村、逆に短命者が多い村を探して訪ね、その生活様式を調査しました。

 博士がこの調査を始めたとき、「短命の原因は酒ではないか」「いや、重労働がいけないのだ」などという俗説が流布されていました。そこで博士は、「それら俗説が正しいのかどうか、実際に自分の目で見てくる」ことを決意し、20キロを超えるリュックサックを背負い、ときに険しい山を登りながら僻地まで足を運び、長いときには1つの地域に2か月も滞在し、合計で990の町村を調べ上げたのです。

 そして、私たち日本人が健康で長生きするためにどのように暮らしていけばいいかを1冊の本にまとめたというわけです。私の手元に残る『日本の長寿村短命村』は、表紙が少し黄ばんでしまいましたが、内容は少しも色あせていません。むしろ、現代を生きる私たちに非常に重要な示唆を与えてくれています。

 私なりに、博士の研究結果をまとめてみると、以下のようなことが言えます。

(1)健康・長寿の決め手は食生活である
(2)酒飲みは短命ではない
(3)重労働をしている人のほうが長寿
(4)ごはんの食べすぎは短命
(5)魚ばかりで野菜が少ない村は短命
(6)大豆製品を多く食べている村は長寿
(7)大量の野菜を食べている村は長寿
(8)果物を多くとる村は短命
(9)海藻を多くとっている村は長寿
(10)肉の食べすぎは短命
(11)塩分をとりすぎている村は短命
(12)ゆっくり楽しんで食べることが大事

 他にもいろいろありますが、長寿か短命かを決めるのは圧倒的に食生活にまつわる要素が多いのです。

 もちろん、山奥の村と海岸ぞいの村では食べているものが違います。いまのように流通システムが整っていない時代ですから、山奥の人が海藻を食べることはできません。しかし、代わりに木の実や山菜、キノコ類には恵まれていたでしょう。実際に、山奥にも海岸ぞいにも、それぞれ長寿村も短命村も存在しています。

 ただ、どちらにおいても共通して指摘されているのが「野菜を多くとっていれば長命であること」「ごはんをたくさん食べていると短命であること」「肉や魚などの動物性タンパク質はほどほどにして、大豆の植物性タンパク質は積極的にとったほうがいいこと」です。

 まさに、私が書籍『医者が教える食事術 最強の教科書』で提言する食生活そのものであり、縄文人の食生活にも近かったのではないかと思います。

 この調査がなされた頃、日本人の塩分摂取率はいまよりもさらに高く、脳卒中が死因の一位を占めていました。

 塩辛い漬物や味噌汁で、白いごはんをたくさん食べる村が日本各地に存在し、それらは軒並み短命となっているのが近藤博士の調査結果でわかります。

 その当時、塩分をとり過ぎる害についてはわかっていても、ごはんの糖質が問題だということを考える研究者はほとんどいなかったと思います。しかし、少なくとも近藤博士は、自分で実際に調査した結果として「ごはんをたくさん食べる村は短命」ということを感じ取っていたわけです。

 とはいえ、当時は賛同者は少なかったことでしょう。貧しかった頃の日本人にとって「ごはんをたらふく食べる」ことは最高の贅沢だったはずです。それが命を縮めるなどと、医者であっても想像しなかったのではないでしょうか。

 やがて、高度成長期を迎えるようになって、糖尿病が「贅沢病」と呼ばれるようになります。しかし、そのときもまだ、炭水化物が原因だと理解している人はほとんどおらず、「肉をたくさん食べるお金持ちが糖尿病にかかるのだ」といった見当違いな指摘がなされてきました。いまになってやっと、正しい知識を得ようとする人々が増えてきたところです。

(この原稿は書籍『医者が教える食事術 最強の教科書――20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)