「信頼関係」がギフトをもたらしてくれる

 助けてもらったこともあります。
 タイで営業をしていたころのことです。ある大手のタイヤの小売業者の担当をしていたのですが、そのオーナー社長は無骨な“たたき上げ”。独特の魅力を放つ人間臭い人物でしたが、取引条件には非常に厳しかった。そのため、「お前の会社はケチだ」「もっと安くしろ」などと責め立てられ、会社との板挟みになって苦しめられていました。

 もちろん、会社には規定の取引条件がありますから、それを盾に杓子定規な交渉をしてもよかったのですが、彼の会社の厳しい経営状態を知っていたので、その気持ちもわからなくはなかった。そこで、お互いにギリギリ折り合える“落としどころ”を見つけるために悪戦苦闘。トラブルも頻発しましたが、文句を言われながらも、なんとか取引を続けていました。

 そんなある日、私はピンチに陥りました。
 他国からタイヤを受注したのですが、納品直前にキャンセル。大量の在庫を抱えることになってしまったのです。やむなく、少しでも販売しようと営業に回りました。とはいえ、他国用のタイヤですから、タイで販売するのは困難。はっきり言って、無理筋な営業だったのです。

 得意先を訪問し続けましたが、やはり引き受けてくれる会社は見つかりません。仕方なく、件のオーナー社長を訪問。販売のプロで、いつもとことん値切ってくるような社長ですから、「100%ムリだろう」とハナから期待はしていませんでしたが、「お願いします!」と頭を下げると、思わぬ反応が返ってきました。しばらく考えたのちに「わかった」と言って、大量に仕入れてくれたのです。

 後日談があります。
 日本に帰任後、出張でタイを訪れたときのことです。あのときのお礼を伝えるために、その社長を訪ねました。すると、嬉しそうに迎え入れてくれたのですが、倉庫を覗くと、あのときのタイヤが山のように積みあがっている。やはり、売れなかったのだ……。タイヤの山を見つめながら、正直、胸が痛みました。

 そして、「申し訳ありませんでした」と伝えると、彼はニカッと笑うとこう言ったのです。「あれは、お前から買った大事なタイヤだから、売るわけにいかない。ずっと取ってあるんだ」。社長の男気に触れたような気がして、ホロッときましたね。ギフトをもらったような気がして、胸が熱くなったことをよく覚えています。