なぜ、「繊細な人」ほどトラブルに強いのか?

 ただし、これは単なるおまじないではありません。
 四十余年のビジネス経験を踏まえて、私は「ビジネスにおけるトラブルで解決不可能なものはない」と確信するに至りました。どんなトラブルであっても、必ず解決することができる。だから、順調にトラブルが起きても、何ら恐れる必要はない。若い人に、そう強くお伝えしたいのです。

 なぜ、必ず解決できるのか?
 あらゆるビジネスは人間対人間の営みだからです。利害の対立など何らかの理由によって、その人間関係に亀裂が入ったとしても、逃げることなく、まっすぐ相手と向き合うことによって、信頼関係を結び直すことさえできれば、お互いに譲り合ったり、知恵を出し合うことで、必ずトラブルを解決する糸口を見出すことができるのです。

 ただし、条件があります。
 絶対に逃げないことです。いや、トラブルから逃げるからこそ問題は大きくなり、手に負えないものになってしまうのです。逃げている限り、相手は絶対に納得しません。そして、不信感をより一層募らせた結果、さらにこちらを追い詰めるような行動に出るからです。

 トラブルを解決するうえで、最大のポイントは「信頼」です。トラブルの渦中で、信頼関係が傷ついているわけですから、それを修復していくのは骨の折れることです。思わずひるみそうになりますが、ここで逃げたら終わり。100%問題を解決することはできません。しかし、お互い人間同士。まっすぐに相手と向き合えば、絶対に信頼を回復する道はあるのです。

 そして、ここで威力を発揮するのが「繊細さ」です。
 トラブル対応で最悪なのは、相手のことを考えず、一方的にこちらの主張を押し通そうとすることです。相手には相手の事情や考えがありますから、それを真摯に受け止めなければ対話は成立しません。無理を通そうとしても、相手の反感を買うだけ。信頼を生み出すどころか、不毛な争いを生み出す結果に陥ってしまうのです。喧嘩腰で、一方的な理屈を組み立ててトラブル対応に向かうのが勇ましく、“切れ者”のように見えることもありますが、その内実は、ただの「無思慮」。こうした「蛮勇」は、本当の意味での「勇気」とは言えないのです。

 それよりも、相手の立場、利害、感情を細やかに察知する「繊細さ」こそが武器となります。相手の言い分に真摯に耳を傾け、その真意を正確に理解する。相手は怒っていますから、厳しい対応を取られることもありますが、それに対して感情的に反応するのではなく、まずは相手の真意をしっかりと受け止めることが重要なのです。

 そのうえで、相手に対するリスペクトをもって、謝罪すべきは謝罪し、譲れない点があればそれを率直に伝える。お互いが納得できる解決策を見出すために、誠実に努力する姿勢を徹底すれば、必ず、「こいつは、人間として信頼できそうだな」と思ってもらえます。そして、信頼関係さえ取り戻すことができれば、自然と問題は解決に向けて動き始めるのです。

 だから、私は、むやみに「好戦的な人物」よりも、「繊細な人物」のほうが、よほどトラブルには強いと確信しているのです。