拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。この第25回の講義では、「技術」に焦点を当て、拙著、『意思決定 12の心得』(PHP文庫)において述べたテーマを取り上げよう。
直観力の無いリーダー
今回のテーマは、「意思決定ができないリーダー 3つのタイプ」。このテーマについて語ろう。
企業や団体、組織や職場のリーダーであるかぎり、重要な「意思決定」が求められる場面に遭遇することは、しばしばあるだろう。
しかし、世の中を見渡すと、「意思決定ができないリーダー」は、決して珍しくない。
それは、どのようなリーダーだろうか。
今回は、意思決定ができないリーダーとして「3つのタイプ」を紹介し、なぜ、意思決定ができないのかを考えてみよう。
まず、第1のタイプ、田中リーダーのエピソードを紹介しよう。彼は、人が良いのが評判のリーダーだ。いつも周囲の気持ちを大切にして行動するため、人間的には皆から好かれている。俗に言う「決して敵をつくらない」といったタイプのリーダーでもある。
しかし、メンバーにとっては、一つだけ悩ましいことがあった。
田中リーダーは、意思決定をしてくれないのだ。
例えば、ある企画について重要な意思決定をしなければならない会議で、メンバーの意見が分かれてまとまらなかったときに、田中リーダーは、決めてくれないのだ。会議のメンバーは延々と議論を続け、大切な論点も十分に出つくした。会議の時間も予定の2時間を大幅に超え、4時間近く経っている。夕刻から始まった会議でもあり、メンバーの表情には疲労感も見えてきている。会議の雰囲気は、「田中リーダー、いい加減に決めてくださいよ」という雰囲気に変わってきている。
それでも、田中リーダーは決められない。正直、どの企画案が良いのか分からないのである。それぞれの案を支持するメンバーの意見を聞くと、それなりに正しいことを言っているように感じてしまう。メンバーの意見を聞けば聞くほど、どの企画案が正しいのか分からなくなってくるのだ。
かといって、いつものように、メンバーの多数の意見に合わせて意思決定するわけにもいかない。今回は、3つの企画案について、会議メンバーの意見は、ほぼ同数で3つに分かれてしまっている。どれかを採用すると、他のメンバーからは不評を買いそうだ。
しかし、何としても明朝の役員説明までに最終案を決めなければならない。時間は刻々と過ぎていく。メンバーの忍耐も限界に達しつつある。だんだん長くなる沈黙の時間が、そのまま「田中リーダー、決めてくださいよ」との暗黙の合唱のように感じられてくる。
田中リーダーは、天井を見上げ、途方に暮れている。どうやら、サイコロでも振って決めたいような心境のようだが、しかし、そうもいかない…。
さて、読者は、このような場面に遭遇したことがないだろうか。
この田中リーダーは、いわゆる「直観力」が無いために意思決定ができないタイプのリーダーである。
理屈で考えれば、3つの企画案のいずれにも一長一短がある。従って、単なる論理的思考だけでは決められない場面であり、また、安易に多数意見に従って決められる場面でもない。
ここはリーダーとしての直観で決めるしかない。それにもかかわらず、田中リーダーは、自分自身の直観力に自信が持てない。これでは、意思決定はできない。