未曾有の災害と疲弊するリーダーたち

 藤澤と東北Rokuプロジェクトのストーリーを通して言いたいことは、彼らの挑戦の尊さだけではない。このマッチングそのものが戦略的に仕掛けられたこと、そして両者の協働が重要な問題の解決に貢献したからだ。

 その意味を理解するためにも、少し話がそれるがここで6月末の東北の状況に戻ろう。

「そんな余裕ないよ」

 この言葉は6月末に東北を訪れた僕が何度も何度も耳にした言葉だ。あらゆるセクターのリーダーは疲弊しきっていた。家族を失い、友人を失い、それでも、休むことができない。まだ目の前には困っている人たちがいて、彼らの生活がどうなるかさえわからない。想定を越えた災害の中で、冷静さを保つ術はなかった。

 疲れの影響か、それとも、錯綜する情報のせいか、僕が見た現場はどこも混沌としていた。結論のない会議も多く、指揮系統は麻痺していた。支援を申し出る助成団体や財団からは、「もし我々が支援するとすれば、何ができるのか」というもっとな問いかけがなされたが、それに答えられる団体は少なかった。「戦略」を考える余裕なんて、どこにもなかったからだ。現場のマンパワーは不足し、その皺寄せは経営者が負わざるを得ないという構造は今も続いている。

 この現状を打破する希望の光と言えるのが、藤澤のような「右腕」の存在だ。もし信頼できる右腕がいれば、実務に忙殺されることなく、次の展開を考える「ゆとり」をほんの少しでも持つことができる。いや、むしろ一時の安堵こそが戦略的思考を取り戻す鍵だったのかもしれない。