当事者の「当事者性」をどう尊重するか

 より長期的なコミットメントが求められる復興フェーズの中で、この転換劇を演出しようとしたのがNPO法人ETIC.(エティック)だ。ETIC.は「震災復興リーダー支援プロジェクト」を通じて、藤澤のような「右腕人材」をすでに45名派遣し、多くのプロジェクトの現場で絶大な評価を得ている。

 だが、そんなETIC.も最初からすべてがうまくいったわけではない。彼らを悩ませた最大の難問は、この復興支援にどこまで関わるか、ということ、すなわち「当事者の当事者性をどう担保するか」に尽きた。

 なぜ、当事者を「与えられるもの」として扱ってはいけないのだろうか。災害の規模を考えれば仕方のないことだ、という意見は一見、確かに筋が通っている。だが、自ら進んで仕事ができる人がいるのにボランティアを優先して仕事を与えることや過剰な配食が、当事者たちの雇用の機会を奪い、地元の飲食業者を圧迫したりすることで、当事者の力を削いでいくというケースは残念ながら散見された。

 ETIC.の活動は全国エリアに広がるが、活動の拠点はあくまで東京だった。土地勘のない東北にどこまで入り込むべきか、東北の復興の脇役でしかない自分たちがどこまで復興を主導するか、悩みは尽きなかった。

 これは、典型的な「支援者のジレンマ」だと言える。第1回で登場した渡辺一馬が言ったように、「支援に依存する」というリスクは、被災者にとっても、支援者にとっても最大のリスクとなる。自立を阻むだけではなく、当事者の「尊厳」や「持ち場」すら奪いかねないからだ。

 このジレンマに苦しむ中で、ETIC.が考えだしたのが、「裏方に徹する」という原則だった。多くの支援者が地域で奮闘する当事者と競合し、持ち場を奪い合うという悲劇が繰り返されるなか、ETIC.の試みは、地域の起業家や経営者から着実に信頼を得、東北に入り込んでいった。

 藤澤を受け入れた島田氏を始めとする経営者たちに話を聞くと、「自分がすべき仕事に時間を割くことができるようになった」と口を揃えて言う。復興という過酷な現場では、短期的なキャッシュインも見込めないのにもかかわらず、サービスを提供すべき被災者は数えきれない。そのジレンマを抱えながら現場を這いずりまる経営者にとって、労苦をともにできる「右腕」がいるということは、かけがえのないことなのだ。

 藤澤たちの活動は、始まってからまだ数か月にすぎない。だが、東北の未来を担う次世代のリーダーが集い、挑戦を始める場として、このプログラムは求心力を持ちつつある。ETIC.は、50件のプロジェクトに対して、200名の「右腕」の派遣を予定しているという。(人材募集中のプロジェクトの詳細は公式サイト、http://michinokushigoto.jp/に掲載されている)

 東京にいるからといって、東北の復興に本格的に関わるやり方がないわけではないのだ。「非・被災地」から東北で奮闘する当事者とともに歩む方法を、ETIC.の事例は示唆している。

  次回は世界からの支援の要望に対して、東北や日本がどう答えて行くのかを考えていこう。グローバル化する社会の中で、世界最大の被援助国の一つとなった日本は、震災を契機にどのような変革を遂げる必要があるのだろうか。

 

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「被災地復興のために我々が為すべきことが、ここにはある」

『辺境から世界を変える――ソーシャルビジネスが生み出す「村の起業家」』

「何もないからこそ、力もアイデアもわくんだ!」(井上英之氏)
先進国の課題解決のヒントは、現地で過酷な問題ー貧困や水不足、教育などーに直面している「当事者」と、彼らが創造力を発揮する仕組みを提供するため国境を越えて活躍する社会企業家たちが持っている。アジアの社会起業家の活躍を通して、新しい途上国像を浮き彫りにする1冊。
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書籍への感想をまとめました!

 

加藤徹生(かとう・てつお)
1980年大阪市生まれ。
社団法人wia代表理事/経営コンサルタント。
大学卒業と同時に経営コンサルタントとして独立。以来、社会起業家の育成や支援を中心に活動する。 2009年、国内だけの活動に限界を感じ、アジア各国を旅し始める。その旅の途中、カンボジアの草の根NGO、SWDCと出会い、代表チャンタ・ヌグワンの「あきらめの悪さ」に圧倒され、事業の支援を買って出る。この経験を通して、最も厳しい環境に置かれた「問題の当事者」こそが世界を変えるようなイノベーションを生み出す原動力となっているのではないか、という着想を得、『辺境から世界を変える』を上梓。
2011年6月末より、東北の復興支援に参画。社会起業家のためのクラウドファンディングを事業とする社団法人wiaを、『辺境から世界を変える』監修者の井上氏らとともに9月に立ち上げた。
twitter : @tetsuo_kato