「図面は頭の中にしかないよ」。野球用のピッチングマシンを自らの手で一から設計し、およそ50年にわたって造り続けてきた大職人、吉田義(72歳)は誇らしげに語る。千葉県内の小さな町工場で、今もせっせとマシン造りに励む日々だ。
高い技術を誇る“ゴッドハンド”の職人芸は業界で名高く、阪神タイガースへの納入を手始めに、プロ球団とも長年の取引実績がある。これまで全12球団が吉田のマシンを活用してきたほか、数年前から米メジャー数球団にも製品を卸している。無論、プロのみならず高校や大学、少年野球までニッポン球界の幅広い需要に応える。
ピッチングマシンは、大きく「アーム式」と「ローター式」に分けられる。吉田が手掛けてきたのはアーム式だ。こちらは投球時の動きがピッチャーの腕の振りに似ており、タイミングを取る練習が実践的にできるため、一般的に選手から好まれやすいとされる。
一方でアーム式には、車輪のような二つのローターを回転させて間からボールをはじき出すローター式と比べ、制球が乱れやすい難点もあるが、その克服には吉田の長年の経験や勘が生かされている。
特に球速が上がるほど抑えが利きづらくなるため、マシンの土台造りやアーム強度などの微調整に職人の技が欠かせない。吉田は試行錯誤の末、それらを絶妙なバランスで組み合わせて抜群の制球力を生み、むしろ強みとなっている。
もう一つの自慢は「耐久性の高さ」だ。定期的な修理・点検のたまものであるが、マシンによっては約30年にわたり使い続けられているものもあるという。