日本での知名度はそれほど高くないが、“教育の質・内容”において、世界でその名を知られているのが米バージニア大学ダーデン経営大学院。ビジネス・スクールの雄である米ハーバード・ビジネス・スクールと比べて、学生と教授の数が約3分の1という規模ながら、英「フィナンシャル・タイムズ」紙の大学院ランキング(2010年)では、「教員の能力」や「コースの編成」の部門で1位を獲得している。1954年設立のダーデン経営大学院は、各種の調査でも上位10校に入る。MBA批判が強まるなかで、“新しいビジネス教育のあり方”を模索する同大学院のブルナー学長に話を聞いた。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)

──8月下旬より、バージニア大学ダーデン経営大学院では、従来からあるMBA(経営管理学修士)コース、企業のエグゼクティブ向けコースに加えて、新しく「エグゼクティブ向けグローバルMBA」(GEMBA)なるコースをスタートさせた。GEMBAとは、どのようなプログラムなのか。

有力ビジネス・スクールの学長が説く<br />“MBA教育”が変わり続けるべき理由ロバート・F・ブルナー(Robert F. Bruner)/米バージニア大学ダーデン経営大学院学長。米シカゴ生まれ。米エール大学を経て、米ハーバード・ビジネス・スクールで、ビジネスの修士号と博士号を取得。シカゴの金融機関勤務の後に、大学教師に転じる。1982年以来、バージニア大学教授を務める。2005年からは同大学ダーデン経営大学院の学長も兼任する。金融分野に強く、M&Aや新興国に関する研究論文で知られる。かつてフランスにあるINSEAD(欧州経営大学院)や、スペイン発祥のビジネス・スクールのIESEなどの客員教授を務めたこともある。著書・共著書は多数あるが、日本語版が出ている共著書には『ザ・パニック/1907年金融恐慌の真相』(東洋経済新報社)などがある。
Photo by Toshiaki Usami

 大学というところは、世間の人々から「象牙の塔」と形容されるように、研究に専念できることから、どんどん内向きになってしまう傾向がある。

 だが、ビジネスを教える経営大学院は、むしろ自分たちから外の世界に出て、さまざまな国の文化や価値観に触れながら、“肌感覚”でビジネスの実相を学ぶ必要がある。学生を含む大学院側は、ビジネスを学ぶことにより、結果として“社会を豊かにする役割”を果たさなければならないと考えている。

 GEMBAコースは、21カ月のプログラムだ。オンラインを使った遠隔教育のほかに、日々刻々と変化が起こる5つの経済圏(中国、インド、ブラジル、欧州、米国)を、2週間ずつグループで移動しながら学習する。中国などの新興国が経済大国になるなかでは、本当の意味でのグローバルな視座を養うためにも、15年前後の実務経験を持つ企業のエグゼクティブは、一定の期間でよいので、海外でビジネスを学ぶべきだ。そのほうが、より多くのことを吸収できる。

──世界にビジネス・スクールは数多いが、学生の満足度調査などのランキングでは、ダーデン経営大学院は常に上位に入っている。だが、今では、オンラインを使った教育は珍しいものではない。ほかと比べて、どのような点が違っているのか。

 第1に、各国で提携する現地の教育機関の設備は借りるものの、授業の内容は提携先に任せっぱなしにするのではなく、第一線の教授陣をはじめとしたスタッフもすべて本国と同じになる。肝心の教育はアウトソーシングせず、本国と同じカリキュラムで行うので、授業の厳しさも含めてファンダメンタルな部分は変わらない。

 第2に、使用するテキストも授業の進め方も同じである。すなわち、「ケースメソッド」(実際にあったビジネス上の問題をレポートにまとめた教材。学生はそのレポートを精読してから授業に臨む)を用いた教授法と、それらをベースにした学生とのディスカッションを重視している。GEMBAコースでは、世界中から集まった企業のエグゼクティブが、自らの実務経験やノウハウを持ち寄ることになるので、それらのナレッジが飛び交うディスカッションは実り多きものになるだろう。

 最後に、“学位としてのMBA”は、3つのコースはまったく同じものを出している。経営大学院のなかには、通常のMBAコース(全日制)以外は「準MBA的な扱いの学位」にして、ある種の差をつけている学校もあるが、ダーデン経営大学院では同じ学位を与えている。そのようなやり方を取っているのは、世界最高水準の教授陣による「同じ質・同じ内容のビジネス教育を提供する」という、私たちのコミットメントだと受け止めてもらいたい。