結論に全面的に賛成するわけではないが、読んでよかったと、他人にも薦めたい本がある。林敬一著『証券会社が売りたがらない米国債を買え!』(ダイヤモンド社)。特に、高齢のお金持ちにお薦めしたい。

 この本は、かつてソロモン・ブラザーズで債券を扱っていた著者が、米国債を題材に投資と債券の基礎をわかりやすく語った良著だ。債券の解説としてはデュレーションまで踏み込まない絶妙のレベルで、数学に伴う苦痛をほとんど感じることなく、投資において大切な心得のざっと8割が印象的に頭に入るように構成されている。

 まず、筆者がこの本の結論のどこに不賛成かをはっきりさせておこう。この本は、ストレスのない有利な資金運用法として通常の利付き債ないしはゼロクーポンの米国債に投資することを勧める。米国はたぶん破綻しないし、金利差があれば長期では為替リスクが十分吸収できるだろうというのが著者の見立てだが、筆者は、政府というものは米国であってもそんなに信用できるものだとは思っていない。為替レートの長期の変動が「意外なほど大きくなる」ことは十分ありうると思う。ブラック・スワンが為替市場にも飛来する可能性は十分あるのではないか。

 また、日本人の稼ぎを国債(公務員)や社債(民間サラリーマン)にたとえる比喩は秀逸だが、キャッシュフローにはライアビリティ(負債)もあるので、リスクも考えなければならない。