政治、文化、そして経済が世界規模で一体化していくグローバリゼーション。豊かな国に生まれたわれわれからすれば、賃金の低下や失業、格差拡大といった影響が気になるところです。実際、多くの先進国でグローバリゼーションに反対する運動が起きています。しかし、それは果たして「道義的に正しい」ことなのでしょうか?
グローバリゼーションと熱力学の第2法則
世界はこの数十年の間に急速なグローバリゼーションを経験し、今もグローバリゼーションが加速しています。グローバリゼーションには光もあれば影もあります。多国籍企業の工場が建設され、職がもたらされ、生活水準が上昇している途上国の労働者や、商品を非常に安く買えるようになる先進国の消費者が光の部分であれば、日本を含む先進国の単純労働者の賃金低下や失業、格差の拡大が影の部分でしょう。
このようにグローバリゼーションはさまざまな社会の変化を引き起こし、その是非が盛んに議論されていますが、最初にはっきりいっておきたいことは、いくらグローバリゼーションの影の部分を強調したり、いくら規制を強化しようとしたところで、このグローバリゼーションの流れは絶対に止められないということです。
なぜならそれは熱力学の第2法則をやぶれといっているに等しいからです。そしてこれから説明するように、経済のグローバリゼーションでは影の部分より光の部分の方がはるかに大きいのです。
熱力学の第2法則は誰もが体験している物理現象です。水槽をふたつくっつけて片方には90度の熱湯を入れて、もう片方には10度の冷水を入れてほうっておけば、熱が温度の高い方から低い方に移動して、やがて両方の水槽の温度が同じになります。
しかしこの逆は絶対に起こらないというのが熱力学の第2法則です。つまり温度が50度のお湯をふたつの水槽に入れておいても、時間がたつと片方が90度になって、もう片方が10度になっているということは起こらないのです。