経済学の定義を一言でいえば、「国民を豊かにするための最適な資源配分を考える学問」です。経済学を勉強しても、将来の株価も将来の為替相場も予想できないかもしれませんし、商売で簡単に儲ける方法もわからないかもしれません。しかし、経済学はよりよい社会をどうやって作っていくかを考えるためにとても役に立つのです。
この連載では、その経済学が今日本を取り巻く問題に対してどのような答えを出しているのかを紹介していきます。第1回は、日本の「労働市場と解雇規制」についてです。
派遣社員はクビにできるから雇われる
日本の労働市場はさまざまな法規制によって資源配分が失敗している典型的な例です。会社側が正社員を解雇できないために、社会全体の経済の成長を阻んでいます。
市場原理がうまく働いていないから、労働力という貴重な資源がうまく社会に配分されないのです。日本の労働市場はコレステロールでどろどろになった血液みたいなものです。
最近何かと話題の「格差」については、規制緩和や市場原理がその原因だとよくいわれますが、これはまったくのデタラメです。ボリュームの点で、日本における重大な格差は、大企業の中高年正社員や公務員と若年層の非正規社員との格差で、これは市場原理が働かないから引き起こされています。
問題は同一労働同一賃金というマーケット・メカニズムからみれば極めて当然のことが、日本の労働市場では実現していないことです。正社員があまりにもガチガチに法律で保護されているので、経営者はダメな正社員の給料を減らすこともクビにすることもできません。そのシワ寄せが派遣社員のような非正規労働者や、採用数が大幅に減らされる新卒の学生にすべて押し付けられてしまっています。
そもそも派遣社員というこの日本で問題になっている雇用形態は、コストの面で見れば企業にとってそんなにいいものではありません。なぜなら派遣会社にピンはねされるからです。手取り20万円の派遣社員を雇うのに企業は40万円ぐらい負担しないといけません。
それでもなぜ派遣社員を使うかというと、景気が悪くなった時に解雇できるからです。企業は派遣社員を使うことによって人件費を変動費にすることができます。そのためには少々割高な費用でも割に合うわけです。